とおく、とおく、鐘の音が聞こえる。
この村にずっと伝わる不思議な鐘。
誰の手に依るでもなく、ひとつ自然と鳴り響く鐘。
それは祝いの鐘かもしれない。
それは呪いの鐘かもしれない。
どうしてこの村にあるのかも、どうしてひとりでに鳴るのかも、なにひとつだってわからない鐘。王都から偉い魔道士様が調べに来たこともあるけれど、なんにもわからなくて帰っていった。すごく偉そうに威張っていたから、ちょっぴりだけ、ざまぁみろ、って思った。
──本当は。私はひとつだけ知っていた。
あれは、終末を告げる鐘なのだ。
時を刻むように。日々を区切るように。私達の住む世界の終わりを数えている。
ひとつ鳴るたびに海が割れる。
ふたつ鳴るたびに空が落ちる。
そうしていつか、あれが鳴り終わったとき、私達の世界が終わるのだ。
ごぉん。ごぉん。
──ああ、また、鐘の音が聞こえる。
8/5/2023, 11:56:29 AM