通り雨
暗くなってきた空を見上げて僕は思わず顔を顰めた。毎朝にこやかに話す気象予報士の当ては外れ、ぱらぱらと雨が降ってきた。傘を忘れた僕は早く帰路に着こうと早足になる。
こんなことばっかりだ。
今日は散々な日だった。行きの電車を1本逃し運動不足の体を引きずって走る羽目になった。出さなければいけない課題を忘れみんなの前で恥をかいた。模試の結果も思ったものでは無い。
進路希望の紙も僕だけ空っぽだ。みんな将来的への不安を吐いていても漠然と方向性は決まっている。なんならまだ高校2年生だと言うのに就きたい業種まで決まってる奴もいる。
脳内の嫌な感情を振り払うように、僕はさらに足を早めた。雨足も強まっていた。
僕だけ、何も、変わらない。
みんな、みんな、大人になりたくないなんて言ってるのにどんどん進んでいっている。ああ、嫌だ。未来のことなんて考えたくない。僕はまだ、大人になれない。やりたいことも見つからない。また、嫌な感情が、黒い雲のように膨らんでいく。何となく、今の空と似ている気がした。
いつも笑みを堪えている担任はトレードマークの困り眉をさらに八の字に歪めて言った。
「今が大事な時期なの。今決めておかないと将来苦労してしまうわよ?」
うるさい。うんざりだ。もう置いてかれたくない。
息が荒くなる。何も考えたくなくて、全力で走った。
数十メートル走って、すぐに息が上がって走れなくなった。情けなくて涙が出そうだった。
ふと空を見上げた。雨が上がっていた。通り雨だったようだ。気象予報士の晴れやかな笑顔が浮かぶ。
空までも変わってしまう。
僕だけ、何も、変わらない。
雨は止んで青空が覗いている。露を堪えた花々がきらりと光った。
カーブミラーに写った僕の姿は濡れたまま。
一瞬で変わった景色に、僕は全く追いつけないのだ。
9/27/2024, 11:21:10 AM