『大事にしたい』
『夜景』another story
※大人な関係の話
瀧島祐緋 Takishima Yuhi
伊川陽葵 Ikawa Himari
1人の人間において、大事にしたいと思える物も人も違う。
それが不特定多数の場合もあれば、ごく限られた物のみの場合もあるだろう。
俺には、自分が大事にしたいものがなんなのか、全く分からなかった。
正確には今も、、
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「祐緋!今日この後ひまー?ご飯とか行かない!?」
「えー私たちと遊ぼうよ!!」
なんで俺の時間割を知ってるのか知らないけど、そうやって誘ってくる連中(半分以上は女)が結構鬱陶しい。
「あ、ごめん、今日も父親の仕事手伝うことになっててさ」
常套句。
これさえ言えばみんな、尊敬の眼差しで俺から離れてくれる。
はぁ、馬鹿だなこいつら
そんな中で……一切俺の方を気にもしない女がひとり。
最初の頃、俺の周りが騒がしいのをただ迷惑そうなキツい目で見てたんだけど、今では存在を無視するかのようにこっちを見ない。
ひとりで教室をさっさと出てく姿が、やけに色濃く残った。
なぜだか、、その後ろ姿がかっこよく感じた。
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適当にネットで知り合った女と身体を重ねるためにそういうことをするためのホテル街に向かう。
今回はハズレだったかもな、、って俺の腕に絡みつく女を横目で見る。
いかにも地雷、、。これっきりにしないと面倒なことになるだろうな、
ぼやーってそんなことを考えていれば、見覚えのある顔が横を通り過ぎる。
え、
「伊川?」
例の、俺に興味ゼロらしい女だった。
「……瀧島、」
心底不服そうな顔をする。
俺的にはその反応が新鮮だった。
「お前ってこういうことしてんのな」
「お互い様。それに、学生なんてそんなもんでしょ?」
否定しないとか、、肝が座ってんな。
さっさと場を離れた伊川。
……もっと話したい。
「ゆうくん早く行こ?」
「……ごめん、今日無理」
「え、」って放心状態の彼女を放って、来た道を行き返す。
思ったより離れていた距離に笑う。
そんなにかよ、って、
不機嫌を隠そうともせず俺から離れようとしてる伊川。
ほんの悪戯心。
行きつけのバーに連れていき、取引をもちかけた。
まあ、取引って言ってもセ〇レになろってだけだけど。
思った通り断り続けてきたけど、懸念点を全て解消してやれば、仕方ないって感じで同意してきた。
……こいつをもっと知りたい。
その欲が、その時の俺を支配していたのに気づいたのは、だいぶ時間が経ってからだった。
「じゃあ、よろしくね?陽葵」
「わざわざ呼び方変える必要ある?」
「いーじゃん?秘密の関係ってかんじ」
「......大学では絶対話しかけないでね」
「もちろん。互いにバレたくない同士」
よろしく。
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俺の下で乱れる陽葵に今まで経験しなかった感情が湧き上がったのは、関係が始まってわりとすぐだった。
いつも無関心ってかんじでしか俺を見てこない。
そんな陽葵が、俺の前で唯一表情を変えるから。
そう、、きっと理由なんてそれだけだって、、、
自分に必死に言いきかせてた。
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「今日のはなに?」
「ウォッカギブソン」
「普通のウォッカじゃないの?」
「カクテル。最近ハマったから作ってみた」
俺らしくない。ほんとに、、自分が自分じゃなくなっていくみたいな、、。
こんなさ、、めんどい回りくどいことなんてしないはずなのに。
なんだよ、カクテルにハマったって、、。
嘘八百。これを伝えたいがために作ったなんて、、
言えない。
「ゆうひ、、」
「っ、!」
今まで1度も呼ばれてこなかった名前。
俺がどれだけ陽葵って呼んでも、、1度も呼んでくれたことはない。
それが、、少し、寂しいな、なんて、、、
「寝言かよ、、」
すーっと静かな寝息を立てるこいつにデコピンをしとく。
「ん、」
「……変な期待させんな」
まあ、、ゆうひなんて、、夕日かもしれないし、、。
俺の名前だなんて決まってないけどさ、、
ちょっとくらい、、俺に心を許してくれたって期待してもいい?
「……俺らしくない」
このすやすやって言葉が似合う寝顔を守りたいとか、、。
時々無理して感情を表に出さないようにしてそうな仕草を見せる陽葵に、もっと自由に生きて欲しいとか、、、
ありのままの姿を見せて欲しいとか、、
ほんとに俺らしくない。
大事にしたいって思える存在ができた、なんて、、。
9/21/2023, 3:08:17 AM