『一つだけ、お願いがございます
満たしてほしいものがあるのでございます』
そう言うと、彼女は襖の奥に手を伸ばした。
ガコンという大きい音ともに掛け軸が反転し、奥へと続く階段が出てきた。
彼女は、代々この家に仕えてきた家政婦の一人だ。
有能であるくせに美しい容姿を持っている。
彼女がこの家に来てから数年が経ち、不慣れだった彼女は今やどこかへ行ってしまった。
性格は、天然でよく柱に頭をぶつけたり、何もない所でコケたりもする。
数年ではあるが僕は彼女をずっと見てきた。
どうやら、僕は彼女に惹かれてしまっているらしい。
だからと言って、彼女に手を出すほど僕は愚かじゃない。
そう言いつつも彼女が夜な夜な一人で家を歩いて
いるものだから気になって後をつけていた。
彼女は、どうやら僕に気付いていたらしく、何をしているのかと聞いてきた。
聞きたいのはこちらなのだが…
正直に話すと、彼女はクスッと笑い、付いてきて ほしいと僕に言った。
後に続くと、そう滅多に入らないお爺様の部屋だった。
すると、彼女はいきなり『私も旦那様にお話しなければならないことがございます』
彼女の美しい笑顔でそう言われたものだから少しよくないことを考えてしまった。
着物を口に当て、ゆっくりと唇を動かす。
空いた掛け軸の奥に進むと、やけにそこがゾワッとなるほどひんやりとしていた事に気づく。
何を言っても言い返さなくなる彼女がただただ不気味で堪らなかった。
彼女が突然その場で止まる。
階段は、続いているしまだ先があるのに
彼女は、右の壁に指を指し、笑顔で言う。
『あれは旦那様の一族の皆様でございます。』
壁には、大量の骸骨が飾られていた。
思わず、声が漏れる。
彼女は、そんなことも気にせず、話続ける。
『旦那様の席はあちらにございます』
そこには、何も飾られていない台が一つ。
どこからか空腹を迎えただろう音が鳴り響く。
同時に冷や汗が止まらない。
足を前に逃げようとした。
でも、無理だった。
その時には足は…
体制がすべて崩れる。
情けない声が漏れる。
彼女は、笑顔になる。
振り上げたそれな鋭い爪なのか牙なのか、はたまた凶器なのか。
わからな…
タイトル:たった一つだけ
4/3/2024, 3:41:55 PM