【衣替え】
十月も半ばを迎えると、衣替えの季節だ。文句を言う君を付き合わせ、クローゼットの中の夏物を冬物へと取り替えていく。と、君の手が不意に止まった。
「もういい加減、これ捨てなよ」
紫紺のストール。肌触りはチクチクとするし、色も随分と褪せてきた。良いものを長く使いたい私としては、安物のそれは決して好みじゃない。だけどそれでも。
「ダメ、今年もそれは使うの」
バッサリと一蹴し、君の手の中からストールを取り上げる。だってこれは君から初めてもらったクリスマスプレゼント。苦学生の君が必死に貯めたなけなしのお金で買ってくれた、大切な思い出の品なのだから。
チカチカと光るイルミネーションの中、こんなものしか買えなくてごめんと泣きそうな顔で眉を下げた君の表情を思い出す。あの頃からずっと、君はわかっていないんだ。私にとっては君が贈ってくれたというその事実だけで、どんな逸品名品よりも価値があるんだってこと。
このストールを纏って、君と二人で今年もイルミネーションを観よう。ワクワクとした気持ちで、私はストールをハンガーラックへとかけた。
10/22/2023, 9:55:58 PM