淡雪

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ぺらりと本の頁を捲る。
誰もいない図書室の一席で、私は冒険をしていた。
本の中では、山賊が愛した女の亡骸を抱えて慟哭している。私は本を閉じて、それを胸に抱いて目を瞑った。
山賊は泣いている。驚くほど、今にも死んでしまいそうな永遠の孤独に包まれて、静寂の中心で泣いている。感情移入をして、私も静かに涙した。
この瞬間が、私は好きだ。
登場人物の切ない想いを感じて、誰もいない、静寂の図書室で目を瞑るのが。現実では何も持っていない私だけれど、この瞬間だけは、図書室という小さな王国に、私という女王をおいて、うつくしくも凄惨なまでに哀しい世界を作り出せるような気がするからだ。
今日も、誰もいない図書室にひとり。
静寂の中心で、私は自分のためだけの王国を築きあげるわ。

10/7/2025, 10:45:39 AM