かなしあそばせ

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「愛してるって言ってよ!!」

格子越しに聞こえてきた彼女の言葉
もういい加減この変わらない景色も飽きてきた
ずっと檻の中は何となく寒い

「うるさいよ。もう、いいんじゃない?」

彼女の顔は青白くなっていく
でもすぐにムッとして

「私たち何年もずっと一緒だったじゃん!
なんで急に突き放すの!!」

彼女の甲高い声は反響し何倍にも返ってきた
限界だなぁフッと思った

「別れようよ」

は?なに?ねぇ!?
たっくん、前のたっくんに戻ってよ!!

そんなのが聞こえる気がするがまあいい。
僕はこんなこともあろうかと檻の鍵のスペアを作っておいたんだ。

ガチャ
あっさりと鍵を開け、膝から崩れ落ちる彼女を横目にこう言った
「好きだったよ、まーや」

そしてこう続ける
「でもね、今は好きじゃない。」

「分かった。」
彼女はゆっくりと立ち上がり包丁を取り出す。
まあ、彼女の性格を考えればそうなるのは理解出来る。

「変われよ。
僕は変わった、変わらないものは……ないよ」

ぷるぷると震える包丁、俯いていて彼女の表情は見えない。

「うん」

そう零した彼女は僕に迷いなく近づいてくる。
そして包丁を胸に向けた

「私もたっくんのこと好きだった。
今、嫌いになったから」

なにか憑き物が取れたようだ
爽やかな声でまっすぐ目を見て彼女はそれを伝えた

「別れよう、もう一生逢わないように」

じゃーねと手を振る彼女の右手にまだ包丁があるが、多分大丈夫だろう。

警戒しながら背を向けた

ドっ

背中に衝撃が走った

それは……暖かい彼女の手だった

「早く行け!このあんぽんたっくん!!」

どうやら彼女、まーやは変わったようだ。

『変わらないものはない』

12/26/2024, 11:33:28 PM