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昔から僕は、欲しいと思った物を素直に言えない性格だ。あれが欲しいこれが欲しいと素直に告げる兄と違って、僕は黙って諦める。
それが通常で、何も気にしたことなんてなかった。

そんなある日、僕が部屋で勉強しているところに訪れた兄は本を借りると部屋に入ってきた。
別に黙って借りればいいのに。律儀だなぁなんて考えていた時、兄はこちらを向き首を傾げて
「欲しいものはないのか?」
と突然聞いた。無意識に目を見開いて、兄を凝視してしまう。僕の欲しいものなんて、興味あるのかと。
「え…ないことは、ないけど。」
ありはするけども、別にそこまで欲しいものでも無いし我慢できる。兄の質問の意味が全く分からず、曖昧な回答をした僕に、彼は柔らかく微笑んだ。
「そうか、何が欲しい?」
何が欲しいか?何故そんなことを聞く?
混乱して若干パニックに陥っている僕に、兄は再び首を傾げる。どうしてそんなに焦っているのか。なんて、自分でも分からないよ。
「欲しいものがあるんだろう?何が欲しい?教えてくれ。」
「聞いてどうするの?」
「買う。」
え?と自分から間抜けな声が出て、兄もつられてえ?と眉間に皺を寄せる。こちらが疑問に思っていることを疑問に思っているらしい。
「なんで買うの?」
「君が欲しいからだろう?」
僕のほしいもの買って何するの?漫画だったらハテナマークが僕の頭上に大量に浮かんでるだろうな。意味のわからない兄の言葉に首を傾げていると、まさか。と苦々しい顔をした兄が
「君、今まで欲しい物は買って貰えないと思ってただろう。」
と言った。え?実際そうじゃないの?
「だって僕、迷惑に「ならない。」
僕の言葉を遮って鋭い目付きで凄む兄に、思わず体が後退する。かなり深いため息をついた兄は手を額に当てると首を横に振りだす。訳の分からない僕の方を指の隙間から見て「いや、まぁ、そう考えるのか…。」とぶつぶつ呟き始めた兄に、今日の彼は変だなと思いながら声をかけようとした。
「よし、出掛けるぞ。」
が、兄の方が行動が早かった。服はそれでいいな?と聞いてきた兄にこくりと頷く。今首を横に振ったらなんかやばい気がしたから。ならいい。と言った兄は僕の腕を引っ張りながら部屋を出る。出かけると言っていたが、毎日忙しい兄の手を煩わせるのではないか。この流れだときっと僕の欲しいものを聞き出して買いに行く気だろう。
「ぼ、僕!何もいらないよ!欲しいものも無い!!」
慌てて少し声を大きくして言うが、兄は止まることもせずに玄関まで歩き、いつの間にか用意していた運転手に聞いたことも無い行き先を告げ始める。何度か兄の名を呼んでいると、やっと振り返った兄は目を細めて言った。
「なら、欲しいものが見つかるまで出かけようか。」
知らないうちに兄の面倒くさいスイッチを押したらしい。これから始まるであろうショッピングに、ため息が出るのをどうにか堪えながらどこか楽しそうな兄に心の中で呟いた。

本当に、家族以外何もいらないのに。

4/20/2023, 12:28:11 PM