日付が変わった真っ暗な道をキミと二人で歩いている。まちまちに立っている街灯の灯りだけが世界をぼんやりと照らしていて、その灯りだけを頼りにして自宅へと向かっている。
「映画びっくりするくらいつまんなかったねー……」
「言うなよ。余計気分が最悪になる」
「つまらなかった映画はその日に消化しちゃうのが一番だよ」
キミの返答はない。どうせいつもの呆れた顔をしているのだろうけれど、暗闇に包まれて見えない。
わざわざレイトショーで観た映画はびっくりするくらいつまらなかった。脚本はめちゃくちゃだし、役者の演技も私の方が上手いんじゃないかというくらい下手くそだった。良いところを探して褒める方が難しい。
そのうえ終幕の時間が最終電車より遅かったせいで、比較的近かった私の家へ徒歩で向かうことになった。
「気になってたのになあ、つまんなかったなあ」
独り言のように私は呟く。つまらなかったという感情が口から溢れ出してくる。
「ねえ、帰ったらもっかい映画みよう。キミが好きなやつ。DVD置きっ放しになってるから」
「あと一時間くらいかかるんだぞ。着いたらすぐ寝ないと」
明日一限からだろ、とキミから指摘が入る。
「まーあ……そうだけど寝なければ行けそうじゃない?」
「そうやって言って徹夜をして君が授業中居眠りしなかったことはあったか?」
「……ないです」
ぐうの音も出ない。
十分ほどそのまま沈黙が続いた。
「……あ」
「どうした?」
「あれ見て。夜桜」
そう言って指で差した方向にはライトアップされた桜の木があった。
「住宅街のど真ん中にあるなんて、珍しいな」
「ね、こんな時間までライトアップされてるのも不思議だね」
ふらふらっと桜の方へ行こうとする私を、キミが腕を掴んで止める。
「おい。どこ行く気だ?さっさと家へ帰るぞ」
「えー?いいじゃん。五分も掛からないんだし」
キミの手を振り解いて私は小走りで桜へ向かう。それをキミは追いかける。
「……わあ」
桜へ近寄ると、その幻想さに言葉を失う。
夜の暗さだけでなく、周りの家の灯りさえない時間だ。ライトアップされた桜の木だけが、この世界に存在しているように見えて。まるで物語のなかにいるみたいだ。
「……っ!おい!」
ほんの数秒だけ、そんなことを考えているとキミが私の肩を掴んだ。
「一人で行ったら危ないだろ!」
「え?ああ、ごめん」
時間を考えろ、と怒るキミを見て、そういえばそういう時間帯だったことを思い出した。
「まったく……少しは危機感を持て」
「……ねえ」
「なんだよ」
「こんな素敵な景色見れたのってキミのおかげだね」
ありがとね、とお礼を言ったときにはキミはもう元の道に戻ろうとして私に背中を向けていた。聞こえてなかったのか、聞こえていないふりをしているのか返事はなかった。
もしも叶うなら、キミがいないと見れない景色をもっと見たい。いる訳もない神様に、そんなお願いをしてみてもいいなと思った。
4/14/2024, 2:43:46 PM