紅子

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『冬になったら』



子どもの頃は冬になったら雪が降って雪遊びが出来るから冬が好きだった。

でも大人になった今は、雪が積もると雪掻きしなきゃ…と思うから余り冬が好きじゃない。


太平洋側か日本海側かと言われると若干日本海側寄りの私の住む町は、山間部な事もあって多い時では1メートル以上の雪が積もる。


だからこの町の子ども達は当たり前の様にスキーウェアを持っていて、雪が積もるとどんなに寒かろうがウェアを着て外へくり出す。


私も子どもの頃は、姉や隣の兄弟と一緒によく雪遊びをした。


「和弥!庭から出ちゃ駄目だよ!」


「うん!」


興奮気味に返事をして、私の横を甥の和弥が雪玉を転がしながら通り過ぎていく。


年末年始、結婚して県外に住む姉が帰省していて、私は今、甥の雪遊びを見守りながら雪掻きをしている。


雪が滅多に降らない土地に住む甥っ子は雪が相当嬉しいらしく、雪だるまを作るんだ!とウェアに身を包み、走り回る。



無邪気だなぁ…子どもは。


そんな事を思いながら雪掻きを進めていると、


「手伝おうか?」


と声を掛けられた。



「うわっ!ビックリした。高志か…。」


隣の家の高志がスノーダンプを持ってウチの庭に入ってきた。


「いいの?助かる。」

「おう。」


隣の家の高志は子どもの頃雪遊びも一緒にしていた幼なじみであり、同級生でもある。



大人になった今でも会えば話すし、見つければ声をかける、そんな仲だ。



「そーいえば、秋に植付した白菜どうなった?」


「おう、あれなかなかよく育ったぞ。雪の下になる前に収穫して保存した。」



お互い雪掻きをしながら、秋に高志が畑作業をしていた時の事を話題に出す。


まだ若いけれど畑作業が好きらしい高志は弱ってきた高志の祖父に代わり、昨年から敷地内の畑で野菜を育てている。


秋に畑にいる高志の姿を見つけて、絡みに行った時に白菜の植付けをしていたのだ。


あの時、私は長年付き合った彼氏と別れたばかりだった。

クリスマスも初詣も、冬の予定がなくなったと自虐的に高志に話したのだ。


『冬になったら、この白菜で一緒に鍋でもするか。』

高志にとってはなんでもない一言だったのかもしれない。


ただ私はこの冬を白菜と鍋を楽しみに迎える事が出来た。


たったそれだけだったけれど救われたのだ。



「あ、そうだ。萌、今日の雪掻きの祝いに今夜一緒に俺の白菜で鍋するか!」


スノーダンプを片手に、私の方を向いて満面の笑みの高志。



祝いって!誘い方下手くそか!

と心の中で突っ込んで、「いいよ!」と私も満面の笑みで返事をする。


私が少しドキドキしている事は秘密にしておう。

11/18/2023, 2:54:20 AM