かたいなか

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最近最近、都内某所、某稲荷神社のおはなしです。
その稲荷神社は不思議な神社で、本物の稲荷狐が家族で仲良く、住んでおりました。

「あっつい。 あっつい」
その日、稲荷神社の稲荷子狐は、人間に化けて人間の社会を勉強しに行こうとしましたが、
気候変動の影響か、そもそもそういう時期だったかしら、ともかく神社の外を暑く感じましたので、
都内にしては深めな森の中の、実家たる稲荷神社で、風と木陰を涼しく堪能しておりましたが、
コンコン稲荷子狐は、更に涼しい場所を知っておったので、そこへ急行したのでした。

「おねーちゃん、おねーちゃん、キツネと遊んで」

子狐コンコン、神社の宿坊兼自宅の中の、お父さん狐の隠し部屋に入りまして、
そこから不思議な不思議な黒い穴の中に入り、
ゆっくりゆっくり落ちていって、スポン!まさかの「ここ」ではない異世界に到着します。
そこは、色々な世界が「その世界」として尊重されるように、別世界との調整をしたり、調停を為したり、そういうことをしている組織の建物の中。
そして、既に滅んでしまった世界に他の世界から間違って渡航者が向かわないように、交通整備のようなものもしている組織の建物の中。
「世界線管理局」といいます。

「おねーちゃん、おねーちゃん、キツネをなでて」

この管理局には、子狐をチヤホヤしてくれる者が、子狐に接待てくれる者が、たくさん居るのです。
今日はその中でも、食いしん坊仲間な収蔵部の従業員さんに、会いに来たのです。
きっと彼女は子狐を、たくさん撫でて、たくさんかわいがって、そして、子狐と一緒に冷たいつめたい、アイスクリームを堪能するのです……
が。

「むむっ!」
子狐が管理局の収蔵部に辿り着いたそのとき、
「ワンワンさんだ、ワンワンさんだ!」
滅んだ世界のチートアイテムを収蔵している収蔵庫のひとつから、魔法の大型ワンコが現れて、ご機嫌に子狐に突進してくるのを見つけたのです!!

「やいっ!ワンワンさん!
おつとめ、ごくろーさまです!」
稲荷狐は基本的に、犬を好ましく思いません。
だけど子狐は稲荷狐なので、その大型犬がどのような大型犬か、魂のニオイで理解したのです。

それは、人間の生活を豊かにするために作られた、魔法生物。魔法の犬でした。
それは、呼吸で大気中の魔力を体に取り入れ、呼気の水蒸気を魔法で光らせる、照明犬でした。
ワンコをワンコと考えぬ、非情で冷血な研究員が、人間のためだけを考えて作り出した、
既に滅んだ世界の遺物。滅んだ世界の遺品でした。

光り輝け、暗闇で。
周囲を照らせ、自分の魂で。
それは照明犬が短命である理由でもありました。

で、そのワンコを世界線管理局が引き取りまして。
良いジャーキー、良いクッション、良い遊び道具に新しい飼い主たる職員を与えたところ、
一気にラブラドール系ワンコに覚醒しまして。
寿命を縮めない光り輝き方も体得しまして。

わふ! わふ! わをん!わうぅん!
陽キャドッグに覚醒した照明犬、同じネコ目イヌ科の匂いを感知して、しかしキツネ属を知らぬので、
てっきり新しい仲間だと勘違い!
子狐に突撃して、 遊ぼう、 遊ぼう!
身を低くして尻尾を上げ、誘うのでした。

わふ! わふ! わをん!わうぅん!
暗闇に光を掲げる陽キャドッグ、陽キャパワーを全開にして、コンコン子狐にじゃれ付きました!
「なんだなんだっ、キツネ、きつねずもうなら、まけないぞッ! やーやー!」
ぎゃぎゃっ!きゃきゃっ!ぎゃん!ぎゃん!
稲荷子狐も子供なので、遊ぶのは大好き!
陽キャドッグのタックルをジャンプでかわし、
陽キャドッグの抱きつきもジャンプでかわし、
背中に跳び乗って、カジカジ、かじかじ!
激しい毛づくろいごっこです。
あんまり楽しく、興奮して、照明犬は大光量!

光り輝け、暗闇で。
周囲を照らせ、自分の歓喜で。
稲荷子狐と照明犬は、周囲の管理局の備品をちょっぴり破壊しながら、楽しく楽しく遊んだとさ。

5/16/2025, 4:28:39 AM