私の彼氏はイケメンでお金持ちだ。
頭もよく、誰もが知る名門大学に通っている。
すでにいろいろな企業からオファーが来ており、将来を約束されたエリートなのだ。
そんな彼だが、多少は驕った所があるものの、いつも優しく紳士的で、記念日も忘れたことがない。
まさに完璧超人と言った風で、自分にはもったいないほどの人物だ。
そんな彼だが一つだけ欠点、というほどの事じゃいけど、妙なことを言うのだ。
『自分はタイムマシーンを持っている』と。
いくら何でもありえないと思う一方で、彼が嘘をつくとも思えない。
実物を見せてくれれば早いのだが、そんなものを簡単に見せてくれるのだろうか?
長い間悩みぬいた末に、ダメ元で聞いてみると、すんなりOKしてもらえた。
彼が言うには、『あれから話題にも出さないから信じてないのかと思った』。
私が悩んでいたのは何だったのか……。
そして本日タイムマシーンを見せてもらうために、彼の家を訪れた。
彼の案内で綺麗に整頓された倉庫に入ると、奥に白いシートがかけてあるものが見える。
初めて見た時の感想は、『薄い』である。
バックトゥザフューチャーに出てくるデロリアンようなものを想像していたから、というのもあるけどこんなので時間旅行なんて出来るのか?
もしかしてコンパクトに畳めるタイプ?
彼に見てもいいかと聞くと、頷いてシートをはぎ取ってくれた。
そこにあったのは、畳ぐらいの大きさの板に色々な箱がついている、なんだかよく分からないものだった。
「えっと、これがタイムマシーン?」
「そうだよ」
「そっか」
私は少しがっかりした。
確かに勝手に期待したのは私だが、これは無いんじゃないのか。
だって、どう頑張っても子供のおもちゃの様にしか見えない。
「どう?」
彼が笑顔で聞いてくる。
私は返答に困る。
だって、これは、なんと言うか――
「ドラえもんに出てくるタイムマシーン見たいだろ」
「ええ、言っちゃうの!?」
まさか彼に言われるとは。
「僕でもそう思うんだから仕方がない」
彼はイタズラが成功したかのように笑っていた。
もしかしてからかわれた?
「ああ、ゴメンゴメン。君の反応が面白くて、つい。
大丈夫だよ、これは本物のタイムマシーン――
だと思っている」
「思っている?」
不思議な表現だった。
彼は私の心を見透かしたように、説明を続ける。
「これさ、小学生くらいの時かな、その時にもらったんだ。
壊れたからって。
うち廃品回収業者じゃないのにさ」
「そうなんだ……」
彼にと取って思い出の品ということか。
友達が作ってくれて、今でもそういうことにしてるって意味かな。
小さいころの思い出は大切だもんね。
「これね、その友達を訪ねて未来から来た奴が乗ってたんだ」
んん?変な話になって来たぞ。
「ていうか、それドラえもんじゃん」
「やっぱそう思う?」
「思う」
やっぱりからかわれたか。
「子供の頃のこと、よく覚えていないんだ」
まだ話は終わってないらしい。
「そのおぼろげな記憶の中に、これに乗っていろんな時代に行った記憶があるんだ」
「それは……」
「うん、言いたいことは分かる。
アニメと記憶がごっちゃになっているんじゃないか、とね」
そう言いながら、懐かしい目をしてタイムマシーン(?)を見ている。
「僕も実はそうじゃないのかと思ってる。
これをくれた友達も、その時のこと覚えていないみたいで、実際よく分からないんだ。
これを持っていた理由も覚えてない」
彼は振り向いて私を見る。
「でもさ僕はこれを本物だと思ってる」
「友達がくれたから?」
「いいや、ロマンさ」
彼は子供っぽく笑う。
「そんな顔初めて見た」
「カッコいいだろ」
「ん-ん、子供っぽくてかわいい」
「締らないなあ」
そして彼は愛おしげにタイムマシーンを撫でる。
「今の僕じゃ無理だけど、これ修理したいんだ」
「その時は乗せてくれる?」
「いいよ」
おお、言ってみるもんだな。
将来が楽しみだ。
「将来子供も出来たら乗せてくる?」
口が滑る。
さすがに結婚を飛び越して、子どもの話はない。
だが彼は、気にせず笑って答えてくれた。
「それじゃこれを大きくして、たくさん乗れるようにしないとね。
3人しか乗れないんじゃ話にならない」
1/23/2024, 9:58:50 AM