しぎい

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トイレにはそれはそれは不幸そうな女神様がいた。

便座に座り込んでいた女神様は俺をちらと見た。いや睨んだ。

「……何?」
「何じゃねえよ。お前トイレに何十分こもってんだよ」

トイレは相変わらず芳香剤の香りに満ちている。

「見ればわかるでしょうが」

女神は背中を丸め、不機嫌そうに髪をかきあげる。なんて不幸臭を撒き散らしている女神様なんだ。

(分かんねえよ)

女神の態度に俺のほうがはち切れそうになりながら、渋々扉を閉める。
限界を訴える膀胱をまだ抑えながら、俺はもと来た廊下を戻った。



遠ざかる足音を確認した女は、とっさに隠した妊娠検査薬をまた手に取った。

女は何度見てもひっくり返らない結果にひたすらため息をつく。

沈んでいたところに悩みの種のお出ましだ。のんきな態度がまた腹が立つ。あの顔を見るとトイレから出る気がまたなくなった。

(気が済むまで籠もってやる。いきなりドアを開けられて、私もちょっとは恥ずかしいんだよ)

今さらだろうが、と反論してくる彼が頭に浮かんできて、勝手に憤慨した。

頬杖をつきついたため息は思いのほか深かった。吐息が芳香剤の香りを押し出す。
狭いスペースにきつい花の匂いがむわっと立ち込めた。

3/16/2025, 2:34:54 PM