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静寂に包まれた部屋

静寂に包まれた部屋、とはまさに今現在のこの部屋の事を言うんだろう。ちゃぶ台を挟み、我が家のトップ、じいじと弟が向かい合う。じいじは齢八十を過ぎても矍鑠としており、真っ直ぐな姿勢も相まって威厳、貫禄は充分だ。対して弟はすでに背を丸め、後ろめたいことがございますと言わんばかりに身を縮めている。

「で、庭の盆栽が折れてるんだが、本当に知らないんだな?」
「っ知らないって。大体、いつ折れたかなんて分かんないだろ」
「見くびるな。毎日世話しとるわ。昨日までは枝も異常なかったわ」
お前が庭でボール遊びしていたことも知っとる。
決定的な証言を突き付けられ、弟の目がこちらを向く。裏切り者、バラシタな。そんな言葉が聞こえそうな、恨みがましい視線に肩を竦める。

バカだねぇ、じいじ相手に悪事を誤魔化すなんて無理だ。ならばさっさと正直に謝った方がいいのだ。俺も何度、往生際悪く言い訳をしてどやされたことか。

「そうだ、タマだよっ」
唐突に弟は声を上げる。
「タマが、盆栽倒してた」
「…ほう」
突如として容疑者にされたタマがのそりと起き上がる。

本当にバカだねぇ。我が家の愛猫タマを一番可愛がってるのはじいじだし、タマが一番懐いてるのもじいじだ。そんな二人の絆を崩すような発言しようもんなら

成り行きを理解しているワケではないだろうが。濡れ衣を着せられたタマは力一杯弟の手を引っ掻く。

静寂に包まれた部屋に。弟の絶叫が響き渡った。

9/29/2024, 12:28:10 PM