「夏の季語。他にはパナマ帽やカンカン帽など。
証券用語に『麦わら帽子は冬に買え』。
なお世の中には10万超の物もある模様。ふーん」
今日も今日とて、非常に手強い題目がやってきた。
某所在住物書きはスマホで情報収集をしながら、かのゴムゴム船長以外にネタがあろうかと葛藤した。
「『麦わら』帽子はよく聞くけど、『稲わら』帽子は無いよね、ってハナシ?それとも意外と最近麦わら帽子被ってる人少ないよねって?」
麦わら帽子、簡単に書けそうに見えて、俺の執筆スキルだと何気にバチクソ難題。物書きはため息ひとつ吐いて、今日も苦し紛れの物語を投稿した。
――――――
猛暑日と熱帯夜が常習化している都内某所。
藤森という雪国出身者が、
麦わら帽子の中に保冷用の氷をぎっしり詰めたビニール袋を入れ、本マグロの500gを埋めて、
それを抱え、自宅アパート近くの稲荷神社まで。
腕の中には麦わら帽子の他に、器用にバランスをとって居座るコンコン子狐。
時折首を伸ばしては、藤森のあごだの首だの唇だのをべろんべろん、舐め倒している。
非日常的な状況である。 気にしてはいけない。
非現実的な光景である。 深く考えてはならない。
本投稿はフィクション。喋る狐は日常の影に潜み、化け猫は日常に紛れて秘密裏に人と接する。
半分現実で半分不思議。都合の良い物語なのだ。
くわっ。くわ〜わんっ。
ご機嫌に歌う子狐は、首から「おつかい頑張ってます」の木札を下げた稲荷神社の狐。
母親から「人間の善い心魂で香り付けされた善い味の魚を買っておいで」と言いつけられたのだ。
コンコン子狐は商店街で、『赤字覚悟だけど客に美味いマグロをたらふく食ってほしい』と値付けされた、利他善意の塊を見初めて購入。
買い物袋のかわりに持ってきた麦わら帽子にマグロを収納し、帽子のツバを噛んで引っ張って神社まで、
行こうと無謀な努力を開始した矢先、
近所のアパートに住み面識のある藤森が、子狐を見つけた。「子狐。その速さではお前の神社にたどり着く前に氷が水になってしまう」
藤森は子狐から麦わら帽子を取り上げ、抱えて、
子狐はぴょこん、藤森の足と腰と腹をよじ登った。
「本気で氷に埋めたマグロの塊を、麦わら帽子に入れて引っ張って帰るつもりだったのか」
そーだよ。美味しそうだったんだよ。コンコン。
「せっかく人に化けられるのだから、この麦わら帽子を両手で抱えて行けば良かったものを」
だってキツネ、狐のまんまで出てきて、狐のまんまでお会計してしまったんだもの。コンコン。
「マグロの付け合せは、不要なのか。向こうで規格外の野菜と山菜が安く売っていた」
山菜!タケノコ!たべる!くわぁくわぅぅっ!
コンコン子狐と藤森は、通行人の動物愛護と狐推しの視線をスルーして、真夏の商店街をぶらりぶらり。
買い物袋のかわりの麦わら帽子を抱えて歩く。
1人と1匹が稲荷神社に到着する頃には、麦わら帽子は夏でいっぱい。
美しい女性に化けた母狐、子狐を送迎してくれた藤森から経緯と経過と結果を聞いて、
お礼に少し、マグロを分けてやったとさ。
8/12/2024, 2:59:14 AM