襲いかかってくるゴブリンたちを先頭を走るギールスが切っていく。スピリット達も弱いけど数が多かった。
打ち漏らしを後ろで走るヴィルが両手のナイフで魔力を込めたカッターで打ち落としていく。
カノンはミレーヌを抱えながら、詠唱を絶やさない。
遠距離からのシーナの援護もあったからだろうか。
(みんな、こんなに強かったんだ…)
強烈な目眩で動けないミレーヌは、ぼんやりと、少しだけ逞しくなったカノンの首筋を見ていた。
激しく揺れることもある。だけど、カノンは絶対にミレーヌを離さない。
「走るよ、掴まって」
うん、と小さな子供のように頷く。
情けないな、貴方よりお姉さんなのに。
お腹のなかにあなたの子がいるなんてまだ信じられない。
村の、年のいった治療院の先生によれば、産まれるのは半年と少し後だと言っていた。
(まだ、ずっと先?それとも、すぐ?)
ミレーヌの中での時間は、小さな頃に戻ったり未来を見たりと忙しい。
ようやく、安全な場所に来たみたいだ。
ギールスがシーナに合図を出して転移が始まった。降ろされた場所は、少し前にキャンプをした場所だった。
へとへとになったシーナと、ぷんすか怒ったティーエが飛んでくる。
でもそれよりも、と。
ミレーヌはヴィルを呼んだ。
「ヴィルどうしたの…」
「はっ?なにが!」
1人でずっと何かを抱えていたんだね。
少し精悍になった幼馴染は、あちこち傷を作り、背に悪魔のような翼を生やしていた。
「なんだか、ずっとひとりぼっちで居たみたいにしてるからさー。泣くのかなと思って」
「なんでオレが泣くんだよ」
そして、触っていい?と聞く。
「いいよ」
カノンに支えられたミレーヌに近づいて、恐る恐る触れた。何の凹凸もないお腹を。
「私も実感はないんだけどね」
「まじの、まじなの」
「みたいだね…」
そしてきっ!とカノンを睨みつける。
「お前、子供に顔覚えて貰えなくなるところだったんだぞ」
「かなぁ…」
カノンも困惑している。
「おまえ、大事にしろよ、ホントに頼むよ…オレ、オレ…」
ヴィルは唇をくっと締めて、言いたいことを噛み殺したようだった。
祈るよ。どうか、君が幸せであるように。
幼馴染はとんだ唐変木で。ぬけてて頼りないけど。
ヴィルのそんな心情など誰もわからない。
「ばーか」
そういって、ヴィルは立ち上がって姿を消した。
神様へ
4/15/2026, 9:47:07 AM