かたいなか

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「丁度某ソシャゲの、リセマラしてる最中なんよ」
やはり8月は高難度お題月間らしい。今月何度目になるか分からぬ手強い題目を見ながら、某所在住物書きはため息を吐いた。
「5分弱で11連。特定のSSR2枚に、可能ならSSRもう1枚またはSR1枚。必要条件のSSR2枚のうち、片方出ても残りの1枚が毎度毎度出ねぇの」

多分コレが俺の、最近の「やるせない」かな。
いつになったらチュートリアルの先行けるんだろな。
物書きは再度息を吐き、首を小さく横に振る。
「で。『やるせない気持ち』で何書けって?」

――――――

職場の長い付き合いの先輩が、今日はちょっとだけ、ホントにちょっとだけ、浮かない顔をしてる。

「お前は、私の『旧姓』を知っていたな」
昼休憩のランチ中、同じテーブルでお弁当広げて、一緒に食べるついでに理由を聞いたら、
「それを踏まえて、まぁ、うん」
スマホ取り出して、ちょっといじって、その画面を私に見せてきた。
「……ちょっとな」

表示されてたのは、最近の事件のニュース記事。
園芸用のトリカブトをネットで仕入れて、その葉っぱを故意に同僚に食べさせたっていう殺人未遂。
すごく毒性の弱いトリカブトだったおかげで、被害者さんは軽い中毒程度で済んだらしい。
「トリカブトは普通に山に生えてるし、昔は治療にも使われたけど、扱い方を間違えると危険」って、専門家からのコメントで記事は締めくくられてた。

トリカブト。
諸事情で改姓した先輩の、前の名字が「『附子』山」だった。
あー……(察し)
はい(把握)
わかる(だいたい理解)

「当てにいっていい?『こういうヤツが居るから全体の評判だの印象だのが悪くなる』じゃない?」
「当たらずも、遠からず。むしろ近い」
「『事件を起こした◯◯さんはゲーマーだった』、『凶行に及んだ◯◯さんはミリオタだった』、『友達居なくて漫画書いてた腐女子が隠し撮りした』」

「……花自体に罪は無いんだ」
「それね」
「こういう形で表に出てくるたび、やるせなくて」
「それね……」

先輩は自分の名字で、私は自分の趣味で。
それぞれちょっと違うけど、「全部が全部、悪いんじゃないのにね」ってやるせなさは、お互い共有できる、気がする。
「それだけだ。辛気くさい話になって、すまない」
「大丈夫。私ちょっと分かる」
それ自体に、罪は無いのにね。一部のやつが悪く使うから、それ全体が悪く見られちゃうってね。
私と先輩は一緒のタイミングでお互いを見て、
一緒のタイミングで、デカい、長いため息を吐いた。

「先輩、私今日美味しいもの食べたくなってきた」
「気分を害したか」
「違うの。でも食べたいの。先輩付き合って」
「んん……?」

8/25/2023, 5:46:07 AM