小鳥遊 桜

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【みかん】


幼い頃から、祖父母の家に行くことが嫌だった。

家が近くにあることも嫌だった。
何かあると、理由も聞かずにすぐ怒ってくることが嫌だった。
すぐ「あれをしなさい。」「これからはこういう事をしないとダメだ。」って言ってくることも嫌だった。
面倒くさくて、お節介で、本当に嫌だった。

ある日突然電話がきた。
「ご近所さんから、みかんを沢山貰ったから帰ってきて持って帰ってほしい。」
私は、また何か言いたくてそう言ってるだけだと思いながら、身支度をして少し大きめの鞄を持って、祖父母の家に行った。
早く帰ろう。そう思いながら。

祖父母の家に着くと、祖母が出てきた。
『おじいちゃんは?』
「いつもの居間にいるよ。おいで。」
と言って奥の方へと行った。


祖父は、こたつに入っていた。
私も、寒かったからこたつに入った。
『はい。みかん。あんたは小さい頃みかん好きだったよね。手が黄色くなるまで沢山食べてたよね。』
と言ってみかんが沢山入った箱を持ってきた。
知らないよ。そんなこと。
そう思いながら、みかんを鞄に入れようとした時、
『最近、家に来ないよな…色々と言い過ぎたかもしれん。本当に、すまなかった。』
祖父が、私に謝ってきた。
祖父の顔は、私が今まで見たことがないぐらい真剣な顔をしていた。
祖母の顔をちらりと見ると、申し訳なさそうな顔していた。

私は、どうしたらいいのか分からなくなった。
ただただ、私のわがままで祖父母の家に行きたくなかっただけなのに。
祖父母は、こんなにも悲しい気持ちでいたなんて…知らなかった。
「確かに色々言われて嫌だったけどね。来れなかったのは、最近忙しかっただけだから。そんなに謝らないで。」
これが私の言えることだった。これしか、なかった。
『みかん、食べましょう。』
祖母がみかんを全員に配った。
私も祖父もみかんを剥いて食べた。
少しだけ酸っぱいけれど、美味しいみかんだった。

12/29/2022, 12:01:18 PM