かたいなか

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「5月8日、『「一」年後』の漢数字版で、このお題書いたわ。あと6月16日が『1年前』」
先月の「一年後」は「◯◯してから一年後」ってネタで書いたわ。某所在住物書きは過去投稿分を軽く確認してから、文章を組み始めた。
去年はこの、「1年後」と「一年後」のような、少し文字や記号が変わっただけのお題の再出題がもう少し、存在していた気がする――句読点の有無とか。

「『今日から数えて』1年後だったら、2025年6月25日のハナシだが、『〇〇を実行する』1年後、とかならずっと未来のハナシも書ける。1年後『〇〇しようね』って約束とその結末も執筆可能よな」
こういう、アレンジが容易で、書きやすいお題が重複するなら、こっちも嬉しいんだがねぇ。物書きは恒例にため息を吐き、次に来るであろうお題を思い……

――――――

去年の夏、何月何日頃のハナシか忘れたけど、
某惣菜屋さんの家庭料理まつりで、鶏肉とか鶏軟骨とかの黒酢炒め……みたいなものが売られてた。
味は完全に黒酢炒めなのに、値札やレシートに書かれてた商品名は「鶏の黒酢じゃない炒め」。

『夏に余りがちな調味料と鶏肉を絡めたんですよ』
惣菜屋さんは家庭料理まつりの最終日、私にひとつだけヒントをくれた――夏に余りがちらしい。
『ウチでも毎年余っちゃうんで、コスパ悪いけど、去年まですごく小さなボトル買ってました』
それが1年後の今年、夫が普通の大きさのボトル買ってきちゃいましてね。さぁ困ったって。
惣菜屋さんがそう言って笑うと、厨房からすごく申し訳無さそうな男声が、「だからゴメンってぇ」。
バチクソ仲が良さそうだけど、多分男声の持ち主さん、奥さんの尻に敷かれてるとみた。

鶏の黒酢じゃない炒めの、鶏肉にハマって、鶏軟骨をリピって、どうにか黒酢じゃない炒めの「黒酢じゃない」何かを突き止めたくて、ざるそば&そうめんに使ってるめんつゆと米酢をまぜて作ってみて、
食べて、んんん(落胆)、ってなった。
それが1年前。それが去年。

1年後の6月9日頃、私は唐突に答えを見つけた。
長い付き合いの職場の先輩が、偶然、「豚の黒酢じゃない炒め」を作った。
それは確かに「夏に余りがち」で、だから私は「それ」の、完成品をコンビニで買ってた。

米酢と砂糖と醤油、それからごま油と塩とかつお出汁、隠し味と思うけどオイスターソースも少々。
冷やし中華のタレだ。
1年後の今年、惣菜屋さんに答え合わせをしに行ったら、にっこり笑って頷いた。
『夫ったらね、今年は胡麻ダレの方買ってきたの』

――「で、レシピ教えてもらったのが、こちら」
どんより蒸し暑い曇り空、職場の昼休憩。
さっそく「鶏軟骨の黒酢じゃない炒め」を作ってお弁当に詰めてきた私に、数ヶ月前から一緒に仕事してる付烏月さん、ツウキさんが、1年前の私よろしく「黒酢?」って聞いてきた。
違うんだなぁ。冷やし中華だもの。わたし。

「最初に野菜と軟骨炒めちゃって、そこに冷やし中華のタレ入れて、味を絡めていくんだってさ」
カリカリカリ、コリコリコリ。
レモン果汁入りを使ったから、タレの絡んだ軟骨を噛むたび、柑橘の香りがジメジメムシムシの雰囲気をパッと払ってくれる。
「私もずっと、結局何炒めだったのか分からなくてさ。それが1年後になって、ほほーん、って」
世の中、どれと何がいつ繋がるか、分かんないモンだよね。 私はそう付け足して、またカリカリ。

ふと、職場最年少、人付き合いがすっっごく苦手っていう新卒ちゃんの方を見た。
目からウロコ、みたいな瞳をキラキラさせて何度も頷いて、大事なことを書き留めておくメモ帳に、ボールペンを当ててる。
視線が合った。 新卒ちゃんは慌てて、申し訳無さそうにすぐ視線を外して、ミテマセンヨって。
ういやつよのう(しみじみ)
こっちゃおいで(軟骨シェアの構え)

「1年前のなぞなぞが1年後、離れた場所の偶然で答え合わせ。たしかに世の中、何がどれと繋がるか、分かったもんじゃないねぇ」
付烏月さんもしみじみコリコリ。焼き豚とトレードした私の黒酢じゃない炒めを賞味してる。
「鶏肉と酸味、っていえばさ」
付烏月さんが言った。
「どっかのお店で、焼き鳥にポン酢かけるところがあって、予想以上に美味かった記憶」
キラリ。今年度から自炊を始めた新卒ちゃんの目が、ボールペンのペン先が、また輝いた。

6/25/2024, 3:24:56 AM