「先輩!」
息を切らしながら呼び止める声に、先輩は振り向いた。人違いでは無かったと安堵するあまり、俺は盛大につまづいて転んだ。
「へ、平気!?怪我してない?」
「はい……平気です……」
先輩に手を差し伸べてもらい、起き上がる。幸い、制服だったおかげで無傷だった。そんな事より、ずっと俺達後輩を支えてくれた先輩が卒業なんて、信じたくもない。だが、これだけは伝えなくては。
「俺、先、輩に……つ、伝えたい、事、が……はぁ、はぁ…やばい死にそう……」
「だ、大丈夫?人呼ぼうか?」
先輩が心配そうに俺の顔を覗き込む。まずい、将来へと羽ばたく先輩にこんな顔をさせる訳には行かない。俺の事は心配無いと伝えなくては。
「せ、せん、せんぱい……俺は、大丈夫、です、から…っ」
「見るからに大丈夫じゃなさそうだよ…。ほら、呼吸を整えて…」
「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……落ち着きました…」
先輩に合わせて深呼吸をする。すると息が苦しくなくなり、話をするのも楽になった。やっぱり先輩は凄い。学年が違う俺にも優しくしてくれて、部活が終わった後はいつも一緒に帰ってくれた。あの至福の時間が無くなってしまうのは寂しいが、それでも俺は先輩の夢を応援したいと思う。
「さよならを言う前に、どうしても伝えたくて……先輩が卒業するの寂しいですけど、俺も先輩と同じ大学行くって決めてますから…!!だから、これからも頑張ってください。俺、先輩の事ずっと……いや、これからも大好きです!!!!」
「声大きいよ…!恥ずかしいからそういうのは二人きりの時とかに言ってくれる…?」
気が付けば生徒達が俺と先輩を怪訝に見てきている。中にはクラスメイトも居る。またやらかしてしまった。先輩が卒業するというのに、俺という奴はどうしてこんなにも心配をかけるような事ばかりするんだ。
「…でも、嬉しいよ。あの、さ、もし君が来年、僕と同じ大学に受かったら……そしたら、二人でルームシェアとか…どうかな?」
先輩の言葉に、俺は目を輝かせ、そして落ち込んだ。
「僕、一人暮らしするんだ。大学から近いし、それに、君の事すごく心配だし……一年後、待ってるから、ね」
ああ、どうしよう。俺は先輩に申し訳無い気持ちでいっぱいだった。大変言いにくいのですが、と前置きをしてから。
「先輩、俺留年です」
8/20/2024, 10:47:59 AM