すず

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灰色の人生っていいよな。真っ黒じゃないだけで区別もできるし。感じることだってできる。本当に素晴らしいよ。



「落ち着いて聞いて」
タバコ焼けしたガザガサの母の声が聞こえた。いつも通りの平坦な声。
「あんな、その目......もう見えんくなるらしい」
そう宣告されたのは病院のベットの上での出来事だった。
「治る可能性も万二一つもないそうだ」
その言葉に反応することは無かった。いやできなかったが正しい。どこで気絶したのか記憶は霞んでいてよく覚えていない。授業中であったか塾の帰りであったか、とてもあやふやだ。だがそこは重要では無い。今最も留意すべき事柄。
僕の様子に気付いたのか母はさらに告げていく。
「受験はもう終わった。あんたが寝ている間にね」
血の気が引いていく。人生を掛けていた。現役の頃を合わせてもう3年近くだ。
体の力が抜けるのを感じていく。
「その様態じゃ大学に行くのもままならない。もう諦めな」
神罰のように下されたその事実は、その事実はその事実....
「すこし、席を外しておくよ」

違う、違うのだ。
母はきっと勘違いをしている。僕の努力が報われるどころか、おぞましい仕打ちを受けていると。僕が憐憫に浸りたいと思っている。
全くもって逆だった。
人生をかけた勝負は勝負にすらなっていなかった。
でももういい。疲弊していた。盲目的だった。楔で磔にされていた。
僕は僕に戻ってようやく気づいた。世界はこんなにも静かだと。
窓越しのてらつく陽の光は確かに僕を包み込んでいた。
僕はきっと諦めたかったんだ。その理由を見つけたかった。
勉強が嫌いになった訳では無い。好きな分野があってそれを学びたくて浪人生になった。それが1年経てば目的から手段へと成り下がった。もう1年経つとこの地獄からの解放を願って大学をめざした。

目が見えなくなり、念願の大学に行ける可能性は消え去った。
それでもこんなにも
「空気が美味しい。」

3/1/2025, 6:02:41 PM