僕は夏になるとあの場所に訪れる。いや、厳密にいうとあの場所に行くまでは夏ではない。あの場所に訪れて、初めて僕は夏の人間になるのだ。あの場所は、深呼吸をすると潮の匂いのする、蝉の鳴き声さえ救済だと感じる、あの暑ささえも何かの囁きだと感じる場所にある。阿利布色の屋根を纏う、祖母の家。その屋根の活き活きとした緑を見た瞬間、僕は思うのだ。「ただいま、夏。」
8/5/2025, 3:18:33 AM