『束の間の休息』2023.10.08
事務所の一階には、後輩の友人が経営するカフェがある。特に名物があるわけでもない。マスターの女性と黒猫が一匹いるありふれたカフェだ。
壁には俺たちのポスターやサインが張られていて、ファンの子たちの聖地となっている。
そんなカフェで、のんびりとコーヒーを飲むのが好きだ。猫は可愛いし、マスターは放っておいてくれる。ぼーっとするのにはピッタリである。
最近は忙しかった。舞台やドラマの撮影、雑誌のインタビューなどなど。
今はエッセイの執筆で締め切りに追われている。ノートパソコンを取り出して、続きを執筆しようとしたがやめた。
今日はのんびりすると決めた。
パタンと閉じて、外を見る。街路樹に鳥が羽休めをして、小さく鳴いている。それに気づいたのか、黒猫が俺のテーブルの上に飛び乗って、カカカッとクラッキングをしている。猫の狩猟本能からくるものらしい。
今まで放っておいてくれたマスターはさすがに、見過ごすことができないのかこちらに寄ってきた。
いかんよと訛りをのせて黒猫をテーブルから降ろした。
抱っこが嫌いなのか黒猫はマスターの腕の中でグネグネと動いている。そして、ぴょんと腕から逃げて俺の膝の上に乗ってきた。
「すみません」
「気にすんなって」
申し訳なさそうにするマスターに笑って答えて、黒猫の好きなようにさせてやる。
コーヒーと軽食を楽しみながら、膝の上の猫を撫でる。
たまにはこうやって、のんびりするのもいいかもしれない
さしずめ、
「束の間の休息ってやつかい」
独り言ちて、コーヒーを一口飲んだ。
10/8/2023, 10:39:19 AM