無音

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【152,お題:手ぶくろ】

「あっ!どうしよう...手ぶくろ忘れちゃった...」

「えっそれヤバくね?今夜ちょー冷えるらしーけど」

最悪だ、この時期限定の街中イルミネーション
1人で街に来るのが苦手だから、幼馴染みに付いてきてもらったのに
迷惑掛けちゃうな、でも電車経由だし取りに帰るのは...お金もあんまり持ってこなかったし...最悪だ

「カイロかなんか買ってこようか?」

「うん...あでもダメだ...私カイロかぶれちゃって」

「そっ...かぁ」

んー、と難しい顔で黙り込んでしまった彼
何でこんな時にばっか忘れ物するの私!と、密かに自分を呪う

でも、仕方ないかな...私冷え性だし、あんまり外に長居しちゃダメって言われてるし...
簡単だ、「やっぱり帰る、付き合わせてごめんね」そう言うだけ、なのに

何で、声がでない...?

「けほっ、コホッ...」

「大丈夫か?ハンカチあるけど...」

大丈夫、と手で示す
そろそろ身体が悲鳴を上げている、さっさと帰った方がいいのは明確だ

「けほっげほっ!...コホッ」

「あーあ、全然大丈夫じゃねえな...もう帰るか」

「......うん、そうした方がいい...よね」

悴んだ手を擦り合わせて暖を取ろうとするけれど、全く温かくならない
もう帰ろう、そう言われてようやく諦めが付いた気がする

帰ろう、そうだもう帰ろう、それが1番いい選択だと
繰り返しながら駅に向かおうとすると、さっきまで隣にいた彼が居なくなっていることに気付いた

「?そっちは駅じゃ無いよ」

全く逆の方向に進んでいる彼に、どうしたのだろう?と声をかける

「えっ?まさか直で帰るつもりだったの?」

え、だってさっき帰ろうって...

?を浮かべて止まっていると、ほら、と彼が左手を出した
手ぶくろが外されたその手を、意図が分からないままに取ると
ぐんと思い切り前に引かれて、ぽすんと彼の胸の中に落ちた

「!!!???」

いきなり近付いた、?の数を増やしていると急に左手が温もりに包まれる
見ると、彼が外した手ぶくろを私の右手にはめているところだった

「えっ!えっ!?」

「せっかく来たのに、少しも見れないなんてもったいねーでしょ」

にへっと笑って見せる彼

「でも手ぶくろ...手が冷えちゃうよ?」

「それはへーき」

そう言うと、彼は私の左手をぎゅっと握りしめた

「これでどっちも温かいよな!」

太陽みたいな笑顔、もし無意識でこれをやっているなら相当罪深い男だよ君は

そう思ったけど、「さっさと見て回って帰るぞ」とやけに早口で言った彼の頬が
ほんの少し赤みを帯びていたので、何も言わないでおいてあげよう

「...ありがとう」

「おー、身体冷えねえうちに見きろうなー!」

12/27/2023, 11:15:31 AM