空の青を写し取って、太陽の光を浴びて、水面がきらきらと輝いて波を打つ。
堤防からその様子を見つめて、眩しそうに彼は目を細めた。
じんわりと蒸し暑い真夏の事。
青空を覆い隠さんとする入道雲が、水平線の向こうから襲いかかるように伸びている。
「海で戦えることになったんだ」
彼は、抑揚のない声でそう言った。
自分はただ輝く海を眺めながら「そう」としか言えない。
行かないで、なんて。誰かに聞かれでもしたらどうなるか。
「おめでとう、良かったね」
それしか、言えなくて。
彼はその言葉を聞いて「うん」と、どこか嬉しそうに言った、気がする。
顔は見えない。見たくない。泣いてしまいそうだから。
それから、彼は立派に海へ出て。
結局、帰ってくることはなくて。
数年後。
あの日と同じような空と海を一人で眺めながら、自分は黙って手向けの花を海へと投げ入れた。
「海へ/20240823」
8/23/2024, 1:10:10 PM