かたいなか

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「麦わら帽子!むぎわらぼうしィ!?」
今日も今日とて、非常に手強い題目がやってきた。某所在住物書きはスマホで情報収集をしながら、かのゴムゴム船長以外に何のネタがあろうかと葛藤した。
「『麦わら』帽子はよく聞くけど、『稲わら』帽子は無いよね、ってハナシ?それとも意外と最近麦わら帽子被ってる人少ないよねって?」
麦わら帽子、簡単に書けそうに見えて、俺の執筆スタイルだと何気にバチクソ難題。物書きはため息ひとつ吐いて、今日も苦し紛れの物語を投稿した。

――――――

困った時の、童話風頼み。不思議な不思議な子狐と、ちょっと大きな麦わら帽子のおはなしです。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
その内末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、不思議なお餅を売って、絶賛修行中。
3月からひとりだけ、人間のお得意様がつきました。

お餅を作って、売って、買ってもらって。
作って、売って、腹を撫でくりまわしてもらって。
コンコン子狐、ちょっとずつ、お小遣いが貯まってきたのでありました。

「麦わら帽子?」
「意外と収まりが良いの。私の友達にも好評よ」

そんなこんなのコンコン子狐、今日は雑貨屋の猫又さん家に、良さげなクッションの新調オーダー。
500円玉5枚ほど、首掛けの小銭入れに大事に入れて、良いもの有りませんかとご相談。
税込みたった、2500円ぽっち。物価の高い東京じゃあ、買えるクッションは限られます。
ぶっちゃけこれくらいの予算なら、プチプラショップに行くのが妥当です。
が、ここで効いてくるのが「化け子狐」の設定。
雑貨屋の猫又、よく心得て、ちょっと大きめの麦わら帽子を持ってきました。

「ねこ鍋の要領ね」
雑貨屋の猫又店員が言いました。
「あなたなら、キツネ鍋になるんでしょうけれど」

お試し用の商品を渡された、コンコン子狐。麦わら帽子をひっくり返し、床に置いて、中に入ってみます。
「わ、スッポリだ」
ふさふさ尻尾をくるりん丸めて、お昼寝ポーズよろしく体を縮めると、
「んんん。深さも、ハンパツも、ちょうどいい……」
頭は丁度帽子のツバに乗るし、背中は帽子のくぼみに収まるし。フィット感がなんともいえません。
なにより通気性の良い麦わら帽子です。
おお、天然素材よ、汝涼しげな夏の季語よ。
じめじめした憂鬱も、雨降りそうな不機嫌も、
見よ、コレひとつあれば少しだけ、カラっと晴れたような気が、絵面だけではするのです。

「次にクッション買いに来る時は、3000円5000円程度で予算組んできてね」
税込2035円。ほんのちょっと足りなかった分は、品出しのお手伝いをして差し引きゼロ。
クッション買いたかった子狐は、ちょっと大きめの麦わら帽子をお買い上げ。
なかなか気に入ってしまったらしく、その後子狐は1週間ほど、遊ぶ時も昼寝の時も、麦わら帽子から離れませんでしたとさ。

8/12/2023, 7:47:30 AM