作家志望の高校生

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俺の家の目の前には、小さな公園がある。遊具もそんなに多くない、狭い公園だ。
しかし子供たちは、そんな狭い空間でも全身ではしゃいで遊び回っている。大して広くもないのに、わざわざボールやら何やらを持ち寄って遊んでいるのだ。結構なことであるが、俺は子供が嫌いだった。
やっぱり公園前の家なんて借りなければよかった、と愚痴を零したところで、現実は変わりやしない。今日も、俺にとっては早すぎるくらいの時間からギャーギャー騒ぐ子供の声を聞きながら、苛立ちを隠すようにヘッドフォンを手にした。
外から響く、耳障りな金属音を聞いていると、どうしても昔を思い出してしまう。記憶からいくら消し去ろうとしても消えてくれない、脳裏にこびりついたシミのような記憶。一定の間隔を空けて、鳴き喚く子犬のような音を上げるブランコが、俺は嫌いだった。
もうずっと昔の話だ。俺がまだこんなにひねくれていなくて、もっとまっすぐで、素直だった頃。俺には一人の親友がいた。当時は陰気で声も小さい、吃りがちで自信もなかった俺は、友達と呼べる友達は彼一人だったように思う。明るくて、友達も多くて、俺とは正反対みたいな奴だった。けれど何かの波長が合ったのか、俺達は不思議なほど、仲が良かったのだ。
そんな彼は、ブランコが好きだった。遊ぶときはいつも公園に集合で、大抵ブランコに並んで座って駄弁るだけ。たまに俺の家に集まる時もあったけれど、彼の家にだけは結局、最後まで頑なに入れてはくれなかった。
ブランコに揺られて、穏やかな彼の声を聞いていると、俺はどうにも眠たくなってしまっていた記憶がある。今は耳障りな金属の擦れる音でさえ、彼の声の前では聞こえなかった。あるいは、小鳥のさえずりに紛れて気が付かなかっただけかもしれない。
彼はある日突然、あの公園で死んだらしい。死体を見たわけでも、葬式に参列したわけでもない。又聞きに聞いただけだった。それを確かめるような勇気は、俺にはなかった。発見時彼が横たわっていたのは、ブランコの下だったという。死因は凍死で、虐待の疑いもあったそうだ。でも俺は、その全てを確かめなかった。だから、真相は分からない。
ブランコの音を聞くと、どうにも彼の声が、あの体温が思い浮かんでしまう。子供たちのはしゃぐ声も、あの頃の彼のようで耳障りだ。
やっぱり、公園前の家なんてやめておけばよかった、ともう何度目かも分からないような後悔を口にしつつ、俺は現実から逃げるようにヘッドフォンから溢れる音の濁流へ飛び込んだ。

テーマ:ブランコ

2/2/2026, 7:49:40 AM