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これを、と手渡された小さな箱に首を傾げた。小綺麗に包装されたそれは日常的に貰うには気張りすぎているし、記念日の贈り物としては控えめに見える。何より軽い。
「開けてみて」
促されて、リボンを引っ張る。するすると解けていったリボンを楽しげに見つめて、彼女はうふうふと笑う。包装紙を剥がし、姿を表したのは白い無表情な箱だった。さあさあ、と先を急かされるままに蓋を開ける。
「何も入ってないじゃん」
「そう、まだ何も入ってない」
「まだ?」
彼女は目を細めたまま、細い、しかして柔らかな腕を首に絡めてきて、まつげが触れ合いそうなほど顔を近づけてきた。
「これから一緒に入れていくの。嬉しいことも、楽しいことも、嫌なことも。たくさんの思い出を貴女と入れていくの」
彼女はそう云ってピンクに彩った唇を少しだけ突き出した。強請られている。可愛らしいおねだりに応えてあげたいが、それよりもまず彼女の意図を正しく組み取れているかどうかを確かめなければならない。
「ねえ」と自身の上着のポケットからベルベットに包まれた箱を取り出した。「もしかしてわかってた?」
「あら、私の気持ち、ちゃんと届いていたの?」
「もちろん」

1/31/2024, 2:12:50 AM