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『どこへ行こう』


上も下も、右も左も分からない真っ白な世界で、私はただただ立ちすくんだ。

そこには何も無くて、色も、形も、存在も、何も無くてただ、私だけがいた。
無音の世界に恐怖し、掴めもない実態をすくい上げ私は止まらない涙に苛立ちさえも感じていた。

この世界は私が思っている以上に広くて、狭い。
この世界は私が感じている以上に面白くて、つまらない。
そして、私が居なくても世界は明日を迎える。
時間は無慈悲にも、誰にでも均等に与えられ、そして、奪われていく。


どこへ行こう。
いや、どこにも行きたくない。
私はただ、もう、何もしたくない。
息をするのも億劫だ。
孤独を謳歌し、人に知られず、死んでいく。
あぁなんて素晴らしいことだろう。
この真っ黒な胸騒ぎが私を孤独にする。

どこへ行こうにも、私は独りだ。
それがいい、それがいいんだ。
どこへ行っても嘲笑われ、踏まれて、蹴られて、私の精神はとっくに崩壊していて、私の隣は奪われ、消され、私を独りにする。

こんな世界なら、私は生きたくない。
この世界に、私が生きる意味はない。


でも、そんなこと言ったら、あの子は悲しむかな。
本物の天使かのようなあの子は、私が居なくなったら、私もそっちに行ったら、悲しむかな。


私は……私が1番行きたい場所は、あなたの横なのです。


あなたのまるで太陽のように温かい香りに、私の冷たくなった手を温めてくれる、あなたの隣に行きたい。
そして、あなたを優しく抱きしめたい。


あなたの隣に座るだけで、世界の輪郭は優しいものになる。
無音だった世界に、あなたの声が木霊する。


『どこへ行こうか』

可笑しそうに笑いながら、その子がそっと、私の頬に触れた気がした。

頬にふれたぬくもりが、温かく彩られた。

10/12/2025, 12:30:57 PM