やりたいこと
気がつけば時計の長針は放課後になってから2周もしていた。
18時15分まで残り30秒。
「将来の夢」
そんな題目で作文をしろと言われて、一文字も書けなかった授業時間を合わせると合計3時間も経過したが、未だ原稿用紙は生まれたままの真っ白な姿だ。
チクタク、という時計の進む音と、野球部の掛け声だけが微かに聞こえる中でぼくは半ば現実逃避をするかのようにシャープペンシルを手元でくるくると回していた。
残り15秒。
将来の夢がないわけではない。
僕にだって、毎日カラスミを食べられる生活水準を保つという立派な夢がある。
なんなら、意気揚々と自分の思い描く理想の将来について書いた。しかし、それではダメだった。
その次に書いた、部屋に隠し部屋の入り口を設けるというのも、父親のように自分の分のお小遣いは家族に秘密で確保するようにするというのも、ロボット掃除機が通ることを前提とした家を作るというのも全てダメであった。
もう、万策が尽きた。
僕に打てる手は何もない。
残り5秒。
お願いだから、どうすればいいのか答えを教えてくれ。
祈るように時計を見つめ、4、3、2、1。
0
18時15分。廊下から歓声が聞こえた。
何度も繰り返した現象に備え、睨むように時計を見つめるが秒針は何事もないかのように進んでいる。
……ふう……どうやら今回は何も書かない、が彼らがループしない条件だったらしい。何度繰り返したか分からない時間の逆行を終えられた達成感に思わず肩の力が抜ける。いや、何もしてないのだが。
しかし、それと同時に気がついてしまう。
目の前にある原稿用紙は何かで埋めなければ僕は家に帰れないということに。
6/10/2023, 12:19:10 PM