ちどり

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暗く、静かな部屋の中を細心の注意を払って、
扉の音も足音もしないように進んだ。

街灯の僅かな灯りに慣れた目で、
ベッドに横たわる愛しい人を見下す。

最近寝付けないらしく、顔色が悪い。
如何にも体調が悪そうだ。

心配だが、この部屋に自分の痕跡を残しておく訳には行かない。

けれど、眠っている間に掛け布団を直すくらいは許されるだろうか。

心臓の音がバクバクする。
うっかり体に触れない様に、掛け布団の端を持ち上げた時。

パッと電気が付いた。

驚いて振り返ると、いつの間にか制服のお巡りさん達がいて、警戒した面持ちで私の手元を見つめていた。

「布団をね、かけ直してあげようと思ったんですよ」

ニッコリと微笑むと、何故か不気味そうな表情を浮かべて、一人が私の背に手を添えた。

「外で少し、お話しましょうか」

促されるままに外へ出ると、一人の男性が遠くから見つめているのが見えた。

彼のことは知っている。
彼女の友人で、私との仲を邪魔しようとしたから。

『ストーカー野郎』

声は聞こえなかったが、スマホを握りしめた彼の口がハッキリそう言っていた。

「掛け布団をね、かけ直したかっただけなんですよ」
⊕これで最後

5/27/2025, 3:32:20 PM