【あなたに届けたい】
「見つからないのであれば、―娘さんはもう助かりません」
盗み聞きしたその言葉に、思わず駆け出していた。今まで親に殴られても、酷いことをいわれても、こんなことにならなかった、
でもその時は身体がはじめて、制御できなくなった。
震えも動悸も止まらなくて、枯れたはずの涙が溢れ、止まらなかった。
いつの間にか、屋上に来ていた。あの子といつも話していた場所、曇天が広がって、濁った雨を打ち付けていた。
ふと、町を見上げる。高いと思った。
ここからなら、いけるかもしれない、もう全部どうでもいい。
身を乗り出し、靴を脱ぐ、傷跡に染みる水たまりなど、もう関係なかった。
「どうして、なんでだ...」
足が動かない、もう未練などないはずなのに、ここから落ちれば、あの子に届けられるかもしれないのに、こういう時に限って、幸せな記憶ばかり出てくる。
どんなに辛くても笑う彼女の姿、病気になっても弱音を吐かず、間違ってると教えてくれた、人間にしてくれた彼女の声。
「私って前はつまらないもので、先生も親も大人は全部、間違いばかり教えてるって思ってた。でも、こうなってから気付いたんだ。案外、人生ってー」
「生きてみる価値があるのかもって」
「…。」
ある晴れた日のこと、少女が目覚めた。
安堵する両親に、奇跡だという医者の声、眠気に抗い、ぎこちないながらも彼女は尋ねる。
「誰が私を助けてくれたんですか?」
「君の友人だよ」
1/30/2023, 1:51:39 PM