冬巴

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「けほ…こほっこほっ…」
誰もいなくなった病室で寂しく乾いた咳の音だけが聞こえる。ここにはさっきまで1人の男がいた。帰ってしまって今はいつもいる彼一人だが。


「もう…長くはないでしょう」
元々言われていた余命は残り半年あるかないからしい。今日見舞いに来た彼に言ったことなどないが。彼は毎回花を持ってくる。花瓶に水も入れてくれたりして、なんだかんだ自分よりも花を大切にしている。そして、毎回彼が持ってくる花は変わっていて、今日はススキだった。母親に見せると驚いたような顔をして、その後は泣きそうになっていたかな。あなたは良い友達を持ったわ。そう言っていた。
…何を言っているのだろう。この母は、そう思ったが口には出さない。その代わりに
「どういうこと?」
と聞いてみた。母は
「花言葉を調べて見なさい」
そう言って帰っていった。言われた通りに調べた彼は、誰もいなくなった病室で寂しく1人泣いていた。



ススキの花言葉、生命力、悔いのない青春

11/10/2022, 2:08:54 PM