名無しの夜

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 真夜中にこっそり、家を抜け出して。

 自転車に乗って、市街地を駆け抜けるのが好きだった。

 ひっそりと静まった家、2階だけ明かりがついた家、光が絶えることのないマンション群。

 国道に出れば、テールランプの帯は切れることなく。

 信号機で止まる車を横目に、ひとけのない歩道を突っ走った。

 息が上がって、汗が吹き出す。

 夜だから、そんな風体も気にする必要はなく。

 この状況がたまらなく楽しく感じて、笑い出したい気持ちでペダルをこぎ、もっとスピードを上げる。


 風と、同化できるような。

 そんな気すら、した。


 誰もいない陸橋で、ひとやすみ。

 風に吹かれながら、自販機で買った缶ジュースを喉に流す。


 さあ、次はどこへ行こう。

 ……といっても、明るくなる前に帰らなければならないから、選択肢はないようなものだけれど。


 でも、もう少しだけ。

 ふわりと吹いた、風に従って。


 あと少しだけ、この夜を走ろうか。

5/15/2024, 5:09:52 AM