No.40『卒業』
散文/掌編小説
教室から見える景色に目を細める。カーテンに隠れた窓際の席で、わたしは階下に見える中庭を見やった。渡り廊下の両側に並んでいるのは下級生だろうか。一人の生徒が通り過ぎるまで、行儀よく一律に、頭を下げている。
「卒業、かあ」
もう直ぐわたしはここからいなくなる。そうして、このクラスにいるみんなもだ。卒業を間近に控えているというのに、とうとうわたしは最後までこのクラスに馴染めなかったのだった。
思えば入学した時からつまづいていた。入学式の前日に事故に遭い、二週間、入院をした。高校デビューを目論んでいたわたしは出鼻をくじかれ、そのまま三年間を過ごしてしまったのだ。
カーテンに隠れているというのに、誰もわたしを気にかけない。今、この時間は高校生活最後の休み時間なのに、このまま何もなく終わってしまうのだろうか。
意を決して誰かに話しかけようとして、誰に話しかけるかでまたつまづいた。一番話しやすそうな学級委員長は男子だし、隣の席は女の子だけど、携帯画面を鏡にしてメイクに夢中だ。
高校デビューを目論んでいたわりに、脆い硝子のように繊細なわたしの心。鋼の心を持ちたかったなあと、階下に視線を戻して溜め息をついた。
お題:My heart
3/28/2023, 9:51:32 AM