【夏の忘れ物を探しに】
「ほんとーにあるの?」
あたしの質問を無視し、彼は山道を歩き続ける。
低い草木が浴衣越しに肌を刺し、サンダルを履いた足は土に塗れた。
夏の忘れ物を探しにいってくる。
祭りの途中でそんなことを言った彼を不思議に思って着いてきたけど、失敗だった。
「あった」
彼が見つけたのは今にも朽ちてしまいそうな小さな祠で、あたしは怒りを通り越して呆れた。
こんなもののためにここまで歩いたなんて。
彼は静かに祠を開けた。
中になにか入っているのかと覗き込み、ドンッと背中に衝撃が走った。
「え?」
あたしの体は前のめりになって、祠の中に、吸い込まれて。
気付けば目の前に闇が広がり、振り返ろうにも体は動かなくて。
夏の忘れ物って、祠への生贄ってこと?
そう聞きたかったけど、あたしは。
9/1/2025, 9:17:56 PM