お題『ただひとりの君へ』
[主様へ
主様、あなたのお子様は立派に成人して、今や一児の母となりました。毎日子育てに奮闘されており、旦那様とふたりで試行錯誤しながら育児をなさっています。時々俺も手伝わせていただいています。お嬢様は今の主様にそっくりでつい笑ってしまうこともあります。
お嬢様と今の主様が容姿行動共にそっくりで、今の主様が主様と姿がそっくりということは、主様もお転婆だったのでしょうか? もしそうだったら、俺は今の主様とお嬢様を通して主様と毎日出会っているのかもしれませんね。
主様のお子様——今の主様のことをご報告したくて筆を取ったのに、つい長くなりそうです。それではまたお手紙をお送りしますね。
ただひとりの主様へ
フェネス・オズワルド]
主様への手紙は何通になるだろうか。たくさん書いた気もするし、だけどまだまだ足りない気もする。手紙を主様、そして誰かが読むことはないけれど……それでも書かずにはいられない。
「主様、俺がそちらに行くのはいつになるかは分かりません」
ロックのウイスキーを傾けながら俺はつい呟いてしまった。
こういうとき、不老の己を恨んでしまう。でも、そういう身体を手に入れることは自分で選んだことだから。だから。
「最後まで天使と、いや、自分自身と戦ってからそちらに行きますね。って、地獄に堕ちてあなたに会えないかもしれませんが、天国の主様の幸せを願っています」
つーっと頬に一雫、涙が伝い落ちてしまった。主様のこととなるとついこうなってしまう。だめだな、俺は幼い頃から泣き虫で、それは今でも変わらない。心も強くならないと。
1/19/2025, 1:13:27 PM