与太ガラス

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「先生!これ、どういうことですか!?」

 夜遅く担当編集が仕事場に押しかけてきた。手には私が送った原稿が握られている。

「原稿は締め切りに間に合わせたはずだが。何か問題があったかな?」

「問題もなにも! あと3話で終了なんて! 聞いていませんよ!」

 担当者は強い口調で言った。だいぶ怒っている。

「作者は私だ。物語の結末は私が決める」

 当然のことだ。

「終わらせないでください…」

「え?」

「終わらせないでください!」

 始まった…。いつもいつも出版社の都合で継続させられて、読者には展開がつまらないだの、飽きてきただのと貶められる。そうやって私の作品が汚されるのはもうたくさんだ。

「私の…私の代で、この作品を終わらせるわけにはいかないんです」

「ずいぶんと自分勝手な理由だな」

「私の、私のキャ…」

「君のキャリアなど知ったことか」

「私のきゃわいい姪っ子が、この連載を毎週楽しみにしてるんです!」

「はあ?」

 担当者は私に向かって突進してきて、スマホを取り出し子どもの写真を見せてきた。

「近い近いちかい! 見えない! 」

 老眼で見えない!

「なんであなたに見せなきゃいけないんだ。個人情報だぞ」

「いや君が見せてきたんだろ」

 パニックでおかしくなってる。あまり見られない人間の本性だ。

「尊敬されてるんだ…。姪っ子に」

「はあ?」

「先生の原稿を一番早くもらって、一番最初に姪っ子に見せて」

「おいおいおい何やってるんだ君は!」

「カズおじさんすごいって、お友達みんなに自慢できるって」

「そんなことのために私の作品を使うな!」

「姪っ子、お友達から予言者って呼ばれてる」

「身内からリークされてるじゃないか! いますぐやめなさい!」

11/29/2024, 1:17:15 AM