ガルシア

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 ソファから飛び出た足に革靴、コート掛けにはよく落ちないでいるものだと感心する芸術的なコート。前にもこんなことがあったと思い返しながら、自分の足の何周も大きいルームシューズを手にソファへ近寄った。
 どこが神経質だ。唸る彼から靴を引っこ抜く。一応仕事場では常に気を張った緊張感の塊だと評されているらしいので、どうやら彼も人間らしく自分の家では気が緩むということだろう。
 以前全く同じことをしたときは寝ぼけ眼のまま手を握られたのだった。共通の知り合いから本当に恋人なのかと定期的に確認されるほどに恋人らしくない私たちにとっては、そんなことすらも珍しい。
 少し、欲張ってみたくなってしまった。
 屈んで指先からそっと頬に触れる。起きない。ゆっくり滑らせて、無造作に崩された髪に指を通した。時々やけに頭を撫でたくなる瞬間があるのだが、起きているときにはできやしない。
 睫毛を押し上げて薄く瞳が覗いた。期待に躍る胸を抑えて見つめていると、長い腕に抱き寄せられる。そして彼は甘えるように体を引きずって、擦り寄ろうとした。
 どすっ、とソファから彼の体がずり落ちて呻き声が漏れる。乱れた髪の下で呆けた顔は、今までに見たどんな顔よりも愛おしかった。


『奇跡をもう一度』

10/2/2023, 3:56:14 PM