その旅人は、
音のない思索を背負ったまま、淡い蒼の尾を引いて進む。
歩幅は大きくも小さくもなく、
まるで世界の拍動に合わせて調律しているかのようだ。
霜を踏むとき響くその微かな音は、
破滅の兆しではなく、
世界が沈黙へ溶ける前の前奏にすぎない。
外套を翻すたび、
群青のあいだから銀鼠の粒子が宙へほどけ、
夜の端にかすかな輝きを撒いてゆく。
髪に宿る氷晶は、生きている。
ただ冷たいのではなく、
触れた者の雑音をすうっと眠らせるための、小さな護符。
人々が冷酷と呼ぶその面差しは、
本当は世界の痛みを黙して受け取るがゆえに硬く見えるだけで、
実際には、疲れた者が納まる影をつくるよう、
ゆっくり枝を下ろす古樹の所作に似ている。
そして旅人は、振り返らない。
けれど、振り返らないのは無関心からではなく、
「歩調を乱さないでいい、君は君の速度で来い」
という寡黙な許しを背に残しているからだ。
題 冬へ
11/17/2025, 9:36:02 PM