花とコトリ

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❄️ 霜降る朝とクロ

寒い朝というのは、いつもより世界が澄んで
いる。
透明度が高い。まるで水の中にいるみたいに。

息を吸うと、その冷たさが肺の奥まできゅっ
と届く。
そうすると、ああ、生きているな、と思う。
昨日までの、なんだか濁ったような心持ちも、
この冷たい空気で洗い流されていく気がする。

庭に出ると、芝生が真っ白になっていた。
霜だ。
太陽の光を反射して、きらきらしている。
小さな小さな氷の粒が、一面の絨毯みたいだ。

クロは、そんなことおかまいなしに、白い絨
毯の上を駆け回る。
黒い毛並みが霜に映えて、まるで影が動いて
いるみたいだ。
鼻をひくひくさせて、地面の匂いを嗅いでい
る。
冷たいだろうに。

彼はいつも、今、ここにいる。
この世界で一番シンプルで、正直な生き物だ。
私たち人間は、過去を悔やんだり、未来を心
配したりして、今を複雑にしてしまう。

「クロ、いいな、おまえは」

そう声をかけると、彼は一度立ち止まり、首
をかしげてから、また走っていく。
霜で濡れた足跡が、芝生の上に黒く残ってい
る。
それが、朝が過ぎ去っていく証拠みたいだっ
た。

私たちも、クロみたいに、今日という一日を、
全力で走り切るだけでいいのかもしれない。
霜の降りる朝に見つけた、ささやかな真実。

11/28/2025, 6:36:09 PM