目の前に先の見えない道が伸びている。
日差しが強く刺している。
雑草が道を開けている。
じっとりと、Tシャツが絡みついている。
一本道がずっと続いている。
ため息をついて、一歩を踏み出す。
ジワジワジワジワジワジワ
耳を刺す蝉の声。どこまでも遥かな空の、向こうに広がる入道雲。
まつ毛を乗り越えて、重い汗が垂れる。
疲れはない。影もない。喉の渇きもない。
ただ目の前に、先の見えない長い道が伸びているだけ。
目を凝らす。
入道雲のその先に、真っ白な雪景色が見える。
鶴が翼を広げ、目の前を飛んでゆく。
ステガノグラフィーは認識できない。
ステガノグラフィーはそれと分かっていなければ気づけない。
真の罠とは、そうやって、悟られないようにいつのまにかやってくる。
ここに入り込んで一体、何十年が経ったのだろうか。
もう数えていない。
あの日、あの夏休みの初日、インターネットで妙に惹かれるこの画像を見つけてから…
魅入っていつの間にか、この道を歩き始めてから…いつまで歩き続けるのだろうか。
ジワジワジワジワ
蝉の鳴き声が耳を刺す。
網膜の奥に、鶴の、脚の丹念な鱗が焼き付く。
一歩踏み出す。
道はずっと続いている。
進めど進めど風景は何も変わらない
体はずっと、炎天下を数分歩き続けた時のようだ。
喉も渇かない。汗もひかない。
目の奥に雪景色が焼き付いている。
この先には何があるのだろうか?
その一心で歩き続けた。終わりはまだ見えない。
長い旅だ。終わりの見えない旅。終わりのない旅。
歩き出す。
日光が肌を刺す。
ジワジワジワジワと蝉が鳴く。
私は狂ってしまったのだろうか?
でもどの道、帰り道はない。
後ろなんてここにはないのだ。
私は蝉の声に押されるように足を出す。
鶴に引っ張られるように前へ出る。
永遠に続くかもしれない、終わりのない旅。
私は今この瞬間も、一歩を踏み出す。
ジワジワジワジワ
蝉が鳴いている。
5/30/2024, 11:35:27 AM