烏羽美空朗

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両腕で作られた暗闇の中で、ハッと目を見開いて、数秒後。書斎机、というよりかは原稿用紙にキスをしていた顔を上げる。
閉め切ったカーテンから僅かに外灯の光が漏れている。何時間寝てしまったのだろうか。

明かりをつけようとして、気付いた。そうだ、今は丁度、重苦しくて暗い別れのシーンを書いていたんだっけか。それで、昔のことを思い出して、一度意識してしまったら、視界は滲むばかりで……。

小説の執筆というのは、想像以上に精神力が必要なことであり、時に主人公たちと共に絶望に追い詰められることさえある。感受性が強すぎるだけと言われればそこまでだが、俺の作風がそちら寄りな為、精神がやられそうになることは多々ある。

そんな俺は、一人でよく泣く。いい歳した大人のくせに、と嗤われたっていい。泣くときは泣く。しかし、必ず暗がりの中で、と決めている。

理由は幾つかあるのだが、一番はもし彼女に泣いているのがバレても、その顔をしっかりと見られなくて済むからだ。前述のとおり、泣くことは恥ずかしいことではないと思っているのは事実である。しかし、彼女に見られるのは別だ。
恥ずかしいというか、なんというか……。

とにかく、彼女がいなくなった今も、その癖が抜けていないのだ。

あと、もう一つ。俺が泣いている時、彼女は何も聞かずに頬を撫でてくれた。その時の彼女の表情をしっかりと見なくて済むから、という理由もあった、かも知れない。

しかしまぁ、今夜は本当に暗いなぁ。

暗がりの中で

10/28/2022, 1:09:20 PM