「祖母の口癖」
「人の寿命っていうのはね、生まれた時から決まっているんだよ」
祖母の口癖だ。
五歳の時に事故で母を亡くした私は、祖母に育てられた。父はいない。私が生まれてすぐに離婚したのだという。
祖母は若くして親と夫を亡くし、最愛のひとり娘にも先立たれた。
人の寿命は最初から決められている──そう思わないと乗り越えられなかったのかもしれない。
決められているのは、寿命だけなの?
もしも、事故死する運命を回避してしまったら、そのあとその人はどうなるの?
母が亡くなったときの事故で、私は生死を彷徨ったという。
もしも、私が運命に逆らって生きているのなら、未来のことがまったく描けないのも、自分が大人になった姿さえも想像できないのも、生きる運命じゃなかったからなの?
時々そんな考えがよぎる。
「あの時生かされたのだから、頑張って生きなきゃ」
私が一番嫌いなセリフ。
祖母は決してこんなことを言わなかった。
「頑張っても、頑張らなくても、いつか人は死ぬの。だからいつ死んでも後悔しないようにするのよ」
祖母の口癖。
だけど私は、まだまだ後悔ばかりの生き方をしている。
昨日もあんなひどい事故に遭ったのに、私は無事だ。念のためにと病院に留められたが、たいした怪我ではない。
何らかの力で生かされているような気さえしてきた。
もしかしたら、生きるために後悔ばかりしているのかもしれない────なんて、ちょっと自分の都合の良いように考え過ぎか。
後悔しないように生きるには、どうしたらいいのか。
無性に祖母に話を聞いて欲しくなった。
三年間、伏せていた写真立てを起こす。
祖母の顔をやっと見ることができた。
────最初から決まってた
8/7/2024, 3:11:03 PM