紅子

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『落ちていく』



眠れない。

私は寝るのが下手だ。


明日も仕事があるから早く寝たいと思うのだけれど、頭の中で色々考え事が浮かんで来て、ついつい「あれはどうなのだろう?」とスマホで検索し出したりするから余計に眠れなくなる。

若い頃は、10時にスコンと落ちて気づくと朝!みたいな日々だったのに、アラサーともなると寝付きも悪ければ、途中で目を覚ます事も増えた。

「そりゃ、運動だな!ジム行くぞ!ジム!」

職場の同僚である坂井くんが、最近通い出してハマっているジム通い。

「えー…私、運動嫌い…。」

「運動量が足りないんだって!体動かして疲れればあっという間に寝落ちするぞ。」

そう言って通っているジムの無料券をくれたので、寝れるなら…と坂井くんについてジムへ行ってみる事にした。

「もう…ムリ!!」

「頑張れ!ラスト1回!じゅーご!!」

基本15回を3セット。

大きな筋肉がある足や背中の筋肉を鍛える為、マシーンを坂井くんに教えてもらいながら使ってみた。

ビックリするくらい筋力がなく、「ヤバいな…老人並みの筋力だぞ…」と坂井くんに言われる始末。

有酸素運動も取り入れながら、1時間も取り組めば足はガタガタ、ヨボヨボの私が完成。

こんな辛いのムリ…。

そう思った私だったのに…その日の夜、私は久しぶりに「あー何も考えられない…」と思考を手放し、深い眠りに落ちた。

次の日、筋肉痛でものすごく体が痛くてヨボヨボなのに、久しぶりにぐっすりと眠れてスッキリしている感覚の方が筋肉痛を上回っている。

こ、これは…!

続けた方がいいかもしれない…。

「坂井くん…昨日のジムなんだけど…私も通おうかと思って…。」

「マジで!?ヤッター!高橋も今日から筋肉仲間だな!」

嬉しそうに坂井くんが笑って言う。

こうして私は筋トレの沼に落ちていく事になる。

そしてプロテインだのEAAだの坂井くんとも筋肉話に花が咲き、一緒に過ごすうちに坂井くんと恋にも落ちていく事になるのだが…それはまだ先の話だ。

11/24/2023, 2:32:11 AM