「私は赦されぬ人に恋をしてしまいました。」
そう言って、教会にある男性が駆け込んできた。
世間に疎いと言われがちな私でも、流石に知っている顔だ。
この地を治める領主の、一人息子。それが彼だったと思う。
高身長に整った顔立ち、体を流れる良家の血。
世の中から見れば最高のスペックだろうに、何故か彼に縁談がとどいた、なんて話は滅多に聞かない。
だが、今日分かった。
彼は清廉な人だから、きっと女性からのお誘いを断る時、全部丁寧に話したんだ。
好きな人がいる、と。初恋だそうだ。その好きな人が、同性である、と。
世界は男女平等に舵を切りつつあるが、ここは片田舎の小さな村。
閉鎖的なこの場所で、同性恋愛は無に等しい。
けれど、それでも彼は恋をした。
写真を見せてもらったが、確かに可愛らしい顔をした人だった。
村の隅にある、パン屋の末息子らしい。
懺悔室で涙ながらにそれを語る彼の話を聞いていると、それは罪ではない、としか言えなくなってきていた。
が、懺悔室の規則は規則。本人が罪だと思って打ち明けた以上、私は赦すと言うしか無い。
若干の躊躇いを持ちつつ、神は全てを赦す、と口を開こうとした、その瞬間。
本来なら、他者の懺悔中は絶対に開かないはずの扉が、勢いよく開けられた。
私からは見えなかったが、彼の反応から、乱入者が意中の彼だろうことはすぐに分かる。
注意すべきだろうが、神もきっと、清き恋心の邪魔をすることは望まないだろう。
そう思って、静かに聞き耳を立てることにした。
写真で見た顔の割に、低く落ち着いた、耳心地の良い声だった。
懺悔室の空気を一瞬、結婚式のものと見紛ってしまうほどの、愛をこれでもかと詰め込んだ甘い声。
それで、神父の私を全く無視して、それはそれは熱烈な告白が始まった。
私はもう、懺悔を聞く必要は無さそうだ。
これ以上、初恋が叶ったらしいお二人の邪魔をするのも如何なものかと、私はそっと懺悔室を後にした。
同性同士の結婚式とは、どう挙げればいいか、なんてことをぼんやり考えつつ、初恋同士の彼らに小さくも祝福があるように、静かに十字を切っておいた。
テーマ:初恋の日
5/8/2026, 9:08:30 AM