滝谷(shui)

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【言葉はいらない。ただ……】

 熱を下さい。
 そう耳に囁いてから、俺たちはベッドに傾れ込んだ。
 今日は家に親はいない。
 兄弟も。
 今だけ俺と君だけの時間だから、とそのまま口づけを交わした。姉の結婚式で見たような優しいものじゃなく、もっと長く、激しいものを。
 二人で抱きしめ合いながら。

 はぁ。と息継ぎも束の間。
 言葉も惜しいと二人は直ぐに唇を重ねる。
 奪い合う酸素。必死の俺。
 苦しそうに息継ぎする君の顔が赤く、高揚していているのがわかったら。もう止まれないと思った。
 高鳴る胸。君も同じ。
 君の腕を掴むと、汗ばんでしっとりした。目が潤んでる。熱を求めるのが、俺だけじゃないって物語るみたいに。

 時間は有限。
 せめて。
 今日こそ。

 いいよね、と君の制服のボタンに手をかけた瞬間。
俺の部屋の扉が開いた。
「妹はいるのよ、お兄ちゃん」
「うわぁああああああ!!!」

 馬鹿ぁ! と叫んでももう遅い。
 高校生の俺たちは、大人の階段を踏み外して赤っ恥をかくのだった。

 ……部屋の鍵……買おうかなぁ。
 

8/29/2023, 12:10:39 PM