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 お元気ですか?

 最近は桜吹雪もチラホラ見えるようになって、ようやっと春らしさが増してきましたね。普段通る道の側に高校があるのですが、そこの正門辺りの地面が桃色に染まっているのを見ると、私などは思わずノスタルジイな気持ちとなってしまうのです。母校とは一切関係無いのにです。不思議ですよね。
 君などは、もしかしたらそこまで女々しくは無いかも知れませんね。

 さて、君も不思議に思っているのではと思います。
 何せ私自身手紙など書く質では無い事は自覚しておりますし、真面目な作法などはサッパリという有様でありますから、こうしてせめて口調くらいはと慣れない事をしているわけです。
 けれど今回はどうしてもこうして伝えたいことがありましたので、多少変に映ってもどうか受け流してくださいね。

 覚えておりますか。私らが共に高校を卒業した日……今度は間違いなく母校の方です、そちらの日に二人で記念にとご飯を食べに行きましたね。

 「折角だからあの店行ってみよう」そう提案したのは君でした。最寄りの駅ビルの中にあった、あの妙に存在感を放っていた高級フレンチ。大人になった今からするとそこそこぐらいではあったのですが、当時価格を調べた時は二人揃ってひっくり返ってしまいましたよね。

 それでも記念だからとコツコツお金を貯めて、高校生の端金で実際行ったのだから、学生のバイタリティとは凄まじいものがあります。

 出てきた料理たちは、全く見たことの無いよく分からないものだらけで、私などは「この余白にもっと料理載せてくれたら良いのに」と青い愚痴を零しておりましたね。今更ですがあのお店にはちょっと申し訳なかったですね。
 でも、あのお店値段相応の味だったんでしょうか?確かに美味しかったんですが、ここまで取るか?と思ってしまうのは貧乏性です。

 春から君は県外へと進学してしまう。それも医療系の大学だって言うから、暫くこうして会えなくなってしまう。
 親友との暫しの別れというものに上手く実感を抱けないまま、それでも僅かな寂しさを感じていました。
 そうした内心ありつつも、やっぱり君と居るのはとても楽しくて、本当に楽しかったんです。
 知っていますか?あのお店、今度無くなってしまうんですよ。

 本題に移りましょうか。
 君はあのお店を出る時にした私との約束を覚えていますか?先程の話のお店の時です。
 六年もの歳月が経っていますから、忘れていても無理は無いかも知れませんね。それでも私はずっと覚えていますよ。君にとっては大したことのないモノかも知れなくとも、私にとってはそれは大切な約束でありましたから。

 もし今度余裕があれば、また君に会いたいのです。君は未だに忙しくしているのかも知れませんが、そこまで長大な用事でもありませんから。
 ほんの些細な、約束を果たすだけですからね。

 長くなりましたが、私からはそれだけです。
 すっかり疎遠になってしまいましたが、お互い大人になったと言いましょうか。それぞれの活躍の場があるのだと思います。
 どうか体だけ気をつけて、お元気で。



P.S.せっかちな君のことです。こんな内容の薄く長ったらしい手紙の文など読み飛ばしているでしょう。だから簡潔に言いますね。

 早よあの時貸した2万返せ。手紙で出してるんだからお前の住所こっちは知ってんだぞ。
 逃げられると思うなよ。

4/8/2025, 2:27:50 PM