ファン

Open App

 教室中が固唾を飲んでいるようだった。 
普段は授業中の先生からの質問にも難なく答えるルナが今日に限って苦戦しているようなのだ。

(どうした、これくらい楽勝だろう…)

俺は戸惑っているように見える彼女を助けたくて今すぐにでも質問に答えたかったが、ゴクリと唾を飲んで我慢した。俺の頭の中では次の考えがぐるぐると回っていた。
 俺が先生の質問に何でもないように答え、

(なぜヨシキが答える?さては、あいつ…)

と教室中に思われる危険を含みながらもルナからの好感度を上げたいという欲求が頭を満たしているのだ。なによりこの教室の雰囲気を変えたい、先生にできないなら俺がやってやる。そうするなら慎重に言葉を選び、答える声のトーンも冷静さがなければならない。

 依然、教室には沈黙が降りている。先生はヒントを出したいのだろうが、戸惑っているように見えた。そこで俺は大袈裟に芝居がけて、咳払いをした。教室中の注目が、ルナから俺に集まる。立ち上がり口をOのかたちにして答えようとした瞬間、教室の扉が開いき、アツキが入ってきた。

「すいません、遅刻しました。」

教室の隅々まで届くその声に、俺はガックリとうなだれ、涙をこらえようとして、ぎゅっと瞳を閉じた。

3/31/2023, 5:48:24 AM