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「あの、どこに行くんですか?」
仕事で久しぶりにミスをしてしまい、デスクで落ち込んでいると
「何ボケっとしてんだ?ほら、行くぞ」
部長が来たかと思ったら強制的に連れ出され、なぜか今、部長の運転する車の助手席に乗せられていた。
「どこって、わかんねえのか?」
赤信号で私の方を向き言われたけれど、訳がわからない。
「着けばわかるだろ」
首を傾げる私に部長はフッと笑うと、再び前を向き、アクセルを踏んだ。

「着いたぞ」
部長が車を停めたのは、星がきらめく海。
「わっ、キレイ」
車を降り空を見上げると、無数の星が輝き、夜空だけでなく、海も照らしていた。
「ありがとうございます、部長。けど、どうして海に?」
まだ理由がわからず、隣に立つ部長に問いかけると
「…覚えてねえのか?」
部長は驚いた表情をしたけれど
「ま、結構前のことだしな。覚えてなくても仕方ねえか」
ハハッと笑う。
「え?私、何を忘れてるんですか?」
覚えていないことが何なのか気になり、思わず部長の腕を掴み見上げると
「気になるならヒントをやるよ。お前が新人の頃。んで、今と同じような状況」
私を見つめ、クスッと笑いながらヒントをくれる。
「私が新人の頃。同じような状況?」
同じような状況って、ミスして落ち込んでた。ってこと?
「……あっ」
「思い出したか?」
「はい。でも、あんな、遠い約束を覚えててくれたんですか?」
「まあな」
新人の頃、ミスをして落ち込んでいた私に、当時課長だった部長が
「そんなに落ち込むなよ、ミスは誰だってするんだから」
「でも、いろいろな方に迷惑をかけてしまって…」
「気にすんな。何とかなったんだし」
「けど…」
「悪いが今は落ち込んでる場合じゃねえんだ、やる事があるし。だから今はこれで、気持ちを切り替えろ」
缶ジュースをくれ
「今度もし落ち込むことがあったら、どこか連れてってやるよ、今はムリだから代わりに。なあ、どこがいい?」
「…星が見たいです」
「わかった。約束な」
頭を撫でながら、そう言ってくれたんだった。
「ま、本当なら、落ち込むことがない方がいいんだけどな」
微笑む部長を見たら泣きそうになり
「…ありがとう、ございます」
俯くと、部長はそっと抱きしめてくれたのでした。


4/9/2025, 9:14:50 AM